研究課題/領域番号 |
17K12639
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
平石 秀史 東京大学, 大学院情報理工学系研究科, 助教 (70795335)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 量子計算 / グラフ・マトロイド分解理論 / Ising模型 / 量子アニーリング |
研究実績の概要 |
本年度は、主に統計物理学由来の計算モデルであるIsing模型・Ice模型上の計算アルゴリズムに関し、研究展開・対外発表を行った。まず、枝分解・階数分解というグラフ・マトロイド分解の手法を用いたIsing模型上の計算アルゴリズムについて、論文誌The IEICE Transactions on Fundamentals of Electronics, Communications and Computer Sciencesへ投稿し、採択された。さらに枝分解を用いた手法に関して、Ising模型の一般化である多値スピンを許容したPotts模型上へのアルゴリズムへと拡張を行った。さらに古典計算・量子計算の比較という観点から、古典メタヒューリスティクスと量子アニーリングに関してIsing模型上の問題を軸に性能評価実験を行い、国際会議AQISでのポスター発表および国際会議WAACでの研究発表を行った。また、別種の統計力学由来計算モデルであるIce模型上へとグラフ分解理論を展開し、マトロイド的枝分解の一種であるcarving decompositionを用いた高速なアルゴリズムを開発し、国際会議WAACおよび国際会議WALCOMにおいて研究発表を行った。 またマトロイド構造のさらなる理解のために、アルゴリズム構築のために重要な表現可能マトロイドに関する研究成果を論文誌The IEICE Transactions on Fundamentals of Electronics, Communications and Computer Sciencesに投稿し採択されると同時に、特定のクラスのIsing模型上分配関数計算を含有するTutte多項式というグラフ・マトロイド不変多項式に関して具体的に多項式を導出し、今後の研究展開の基盤を整えると同時に、その結果を国内学会JCCAで発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本年度は、Ising模型という統計物理由来の計算モデルであると同時に、古典・量子双方の計算量理論に対しても深いつながりを持つ計算モデルに対して、古典計算・量子計算の双方の観点から研究を行った。特に古典計算と量子計算の統一的な計算フレームワークの構築を目指して、グラフ・マトロイド分解理論を用いた計算アルゴリズムの開発を推進すると同時に、一部の研究成果をIsing模型の一般化であるPotts模型上でのアルゴリズムへと拡張を行った。また同時に、量子アニーリングという量子計算機実装において現在もっとも有望な枠組みであり、同枠組みの下で量子計算機の実機も登場している計算フレームワークに着目し、古典・量子メタヒューリスティクスの実験的挙動をIsing模型上の計算問題に関して調査することを通じ、次年度以降における古典・量子アルゴリズム開発の統一的な枠組み構築に向けての予備的な研究を行った。さらにIsing模型のみならず、別の統計力学由来の計算モデルであり、離散最適化問題とも関連が深いIce模型に関して、グラフ・マトロイド分解の手法を用い計算アルゴリズム開発を行った。最後に、古典計算・量子計算解析の共通の基盤となりうるマトロイド構造の更なる性質解明をめざし、表現可能マトロイドの特徴づけや、グラフ・マトロイドTutte多項式の導出などといった研究も行った。
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今後の研究の推進方策 |
来年度以降は、古典計算・量子計算の統一的アルゴリズム構築に向けて、前年度までに得られたIsing模型上およびPotts模型上のグラフ・マトロイド分解を用いたアルゴリズムに関して、量子アルゴリズムへと拡張することを目指す。特に様々な組合せアルゴリズムの量子計算への拡張に関して、特に有望な量子計算フレームワークである測定ベース量子計算(MBQC)および量子グラフ状態に着目し、MQBCと特に関係の深いグラフ・マトロイド階数分解を通じた拡張を試みる。 さらにIsing模型が量子アニーリングという量子計算モデルの中心的計算問題であることにも着目し、前年度までの実験結果を基に、理論的成果を得ることを目指す。特にグラフ・マトロイド理論を用い、幅広い計算問題からのIsing模型へのParameterized Complexityの意味での効率的な変換を調査することを通じ、量子アニーリングの古典計算に対する優位性に関しても解析を行うことを目指す。 さらに前年度に得られた別種の統計物理モデルであるIce模型上のアルゴリズムに関しても、量子アルゴリズムへの拡張を検討すると当時に、本研究の基礎であるグラフ・マトロイド分解理論自体の更なる性質解明を前年度に引き続き行う。
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