データを秘密にしたまま計算を行う代表的なモデルである秘密同時通信および条件付き秘密開示において汎用的な通信複雑度(秘密情報を保持している複数の参加者から関数値を計算する評価者へ秘密を漏らさずにデータを送るための通信量)と乱数複雑度(評価者へ秘密情報を漏らさない通信を実現するための参加者間の共有乱数の量)の解析を行った.秘密同時通信では複数の参加者が秘密情報を保持しており,その秘密情報を入力とする関数(例えば平均値など)を共有乱数を利用して暗号化された情報を評価者に送ることで,評価者に情報を漏らすことなく計算させることを目的とする.また条件付き秘密開示では共通の秘密を持った複数の参加者が各参加者個別の入力と共有乱数を利用して暗号化された情報を評価者に送り,参加者の個別入力が与えられた条件を満たすときだけ評価者が秘密を復元できることを要請する.これらのモデルの解析の研究結果として,いくつかの代表的な関数に対して組合せ論的な手法および情報理論的な手法によって新しい通信複雑度の下界証明,つまり通信量削減の原理的な限界を示すことができた.またこの二つのプロトコルに対して通信複雑度の下界から乱数複雑度の下界を示すための非常に汎用的な関係式を示した.この結果によって新たに多くの具体的な関数について共有乱数削減の限界を示すことができた.いくつかの重要な例においては上下界が定数倍の範囲で一致することも確認することができた.例えば,任意の論理関数を計算する汎用的評価者を持つ秘密同時通信に対する通信量複雑度の上下界は2^nの定数倍(ここでnは入力ビット長)であり,乱数複雑度の上界は2^nであることが知られていたが,今回の通信複雑度と乱数複雑度の関係式より乱数複雑度の下界が2^nの定数倍であることが証明でき,乱数複雑度の上下界の強い関係も明らかにすることができた.
|