研究課題/領域番号 |
17K12672
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研究機関 | 愛媛大学 |
研究代表者 |
藤橋 卓也 愛媛大学, 理工学研究科(工学系), 助教(特定職員) (10785520)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | ニアアナログ変調 / 低オーバヘッド映像伝送手法 / マルチパスハイブリッド映像伝送 / 無線自由視点映像伝送手法 |
研究実績の概要 |
1)多様な通信路品質に対処した伝送手法:無線伝送路を介して映像情報を伝送する場合,その通信路品質が時間的に変動しやすいことに起因して受信映像のエラー・損失が発生することによる映像品質の急激な劣化(クリフ効果)を招く.このような品質低下を抑制するためにニアアナログ変調を利用した映像伝送手法が近年提案されているが,多大なオーバヘッドによる品質低下を招く課題が残されている.そこで,本年度は映像信号のモデル化とモデルから得られたフィッティング関数を利用した低オーバヘッド映像伝送手法を提案した.性能評価から,本手法は既存のニアアナログ変調を利用した手法と比較して約2.7 dBの品質改善を得られることが分かった.これらの研究成果は国際学術誌IEEE Transactions on Multimediaにて発表済みである. 2)多様な無線媒体に対処した伝送手法:本テーマにおいては,複数の無線伝送路(LTEおよびWi-Fi)が映像配信に利用可能であるときに,より多くのユーザが受信可能なLTEチャネルを介してベース品質となる映像情報,一部のユーザが受信可能なWi-Fiチャネルを介して映像品質を強化可能な残余情報を送信することで,高映像品質を達成するマルチパスハイブリッド映像伝送手法を設計した.これらの研究成果は情報処理学会DICOMO2017で発表済みである. 3)多様な多次元映像に対処した伝送手法:本テーマでは,各カメラのフレームごとの人気度に従ってビデオフレームの損失に対する耐性を適応的に制御する手法を提案した.また,無線通信路品質の変動にともなう映像品質の劣化に対処した新たな無線自由視点映像伝送手法を提案した.これらの研究成果は,電子情報通信学会英文論文誌およびIEEE International Conference on Communications 2017にて発表済みである.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1)多様な通信路品質に対処した伝送手法については,Xiph.orgが提供する世界的なテストビデオシーケンス,MATLABを用いた性能評価から,無線通信路品質が時間的に変動する場合,利用可能な帯域幅が限定的である場合においても,提案手法が既存手法と比較して高映像品質を達成できることを明らかにした.本研究で得られた成果は,現在,自由視点映像配信環境への展開を進めているとともに,マルチメディア分野における著名な国際学術誌であるIEEE Transactions on Multimediaに論文が採択されている. 2)多様な無線媒体に対処した伝送手法については,Mitsubishi Electric Research Laboratoriesが提供するビデオシーケンスを使った性能評価から,既存手法と比較して複数の無線伝送路を利用できる場合,既存手法と比較して映像品質を大幅に改善できることを明らかにした.本研究成果をまとめた論文は,現在,情報処理学会論文誌への投稿が完了しており,レビューが進められている.また,本手法で得られた知見が他の複数無線伝送路環境において適用可能であるか検討を進めている. 3)多様な多次元映像に対処した伝送手法については,マルチビュービデオエンコーダ3D-ATMおよび名古屋大学が提供するマルチビュービデオシーケンスを用いた性能評価から,本年度設計した自由視点映像伝送手法は無線通信路品質の変動に対して高い耐性を持つことを明らかにした.本手法で得られた知見を元にして,現在,360度映像伝送手法の設計を進めている.また,研究成果をまとめた論文はIEEE Transactions on Multimediaへの投稿が完了しており,レビューが進められている.
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今後の研究の推進方策 |
来年度は以下のように1)多様な通信路品質に対処した伝送手法,2)多様な無線媒体に対処した伝送手法,3)多様な多次元映像に対処した伝送手法についてそれぞれ取り組む. 1)については,これまで単一視点映像を元にしたモデル化・フィッティング関数を複数視点映像に対して拡張する.より多くのオーバヘッドを必要とする複数視点映像伝送において,本手法を適用することで狭帯域環境においても,高映像品質を達成可能な伝送手法の実現を目指す. 2)については,提案手法による効果を明らかにするために,異なる通信路品質・利用可能帯域における性能評価を実施する.また,提案手法による効果が他の配信環境においても適用可能であるか,また,適用可能でなければどのような拡張が必要となるか検討する.現在,想定しうる配信環境として屋内環境における可視光および無線伝送路を同時利用した映像配信技術に関する検討を進めている. 3)については,これまで自由視点映像配信を対象として設計した伝送手法を360度映像配信環境に拡張する.自由視点映像においては複数のカメラ映像のうち,ユーザは一部のカメラ映像のみを視聴する.一方で,360度映像配信においては,各ユーザは360度映像のうち,ヘッドマウントディスプレイ等のディスプレイを通して一部の領域のみを視聴する.このとき,ユーザの視聴領域を重点的に強化・保護する伝送手法を検討する.
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次年度使用額が生じた理由 |
研究を進めるにあたって,当初の計画よりも順調に研究成果が得られたため,前倒し申請を行い,翌年度に取り組む予定であったニアアナログ変調を活用した自由視点映像伝送に関する研究などについても本年度から着手した。一方で,研究を進めるにしたがって直面した自由視点映像信号に対する適切なモデルの定義等の課題解決に時間を要してしまい,年度途中から研究を進めたことも起因して得られた研究成果を年度内に外部へ発表することができなかった. 次年度に回った金額については,当初の計画通り,本年度の取り組みおよび来年度の取り組みによって得られた研究成果を外部に発表するために使用する予定である.
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