研究課題/領域番号 |
17K12674
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研究機関 | 九州工業大学 |
研究代表者 |
野林 大起 九州工業大学, 大学院工学研究院, 助教 (40632906)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 無線 LAN / IEEE 802.11ac / チャネルボンディング |
研究実績の概要 |
本研究は、同一空間上に多数の無線LAN通信が存在し、チャネル干渉により互いに影響し合う環境において、各通信が周辺のチャネル利用状況を把握し活用することで空間全体の通信性能を向上させることを目的としている。 平成29年度は、ボンディング幅が異なる通信が混在する環境下における各通信の相互影響を実機実験により検証した。本実験では、最新の IEEE 802.11ac Wave2 機器と従来の 11ac Wave1/11n/11a 機器が混在する環境において、互いの通信がどのような影響を与えるか調査を行った。具体的には、チャネルボンディングする 11ac Wave2 のアクセスポイント (AP) の通信に対して、11ac/11a の AP を設置して競合させた。そして、Wave2 AP のボンディング幅を 80 MHz に固定し、競合する通信をそのボンディング幅にあわせてチャネルを様々に切り替えた場合における、両 AP の通信への影響をフレームレベルで解析することで検証した。その結果、11ac 規格の通信は、AP 及び端末の製造メーカーの組み合わせによって動作が異なる事を確認した。さらに動作が異なる通信が競合する場合、機器が使用している通信方式の組み合わせにより通信性能の勝者と敗者が変化することを確認した。これらの成果は国内研究会において対外発表している。 加えて、上記の実験と同様にチャネルボンディングする通信に対して競合する他の通信が存在する場合の通信性能を改善するため、待ち行列理論を用いた解析を実施した。また、競合する通信に応じてボンディング幅を変化させる動的チャネルボンディングにおいて、競合発生下のチャネル有効活用を目的としたチャネル利用方法について提案し、その有効性をシミュレーションにより評価した。これらの成果に関しても国内研究会において対外発表している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
平成29年度に予定していた項目に対して、当初の計画以上に研究が進展している。具体的には、ボンディング幅が異なる通信が混在する環境下における各通信の相互影響を実機実験により検証した。その結果、様々なメーカーの IEEE 802.11ac 準拠の無線 LAN 機器を用いてフレームレベルでの検証することで、機器の組み合わせによりこれまで想定できていない(規格において規定されていない)チャネルボンディングの動作の違いについて確認することができた。さらに、これらの機器を競合させることで IEEE 802.11ac におけるチャネル競合時の通信性能について詳細な評価結果を得ることができた。これにより、平成29年度に予定していた実機実験による相互影響の調査に関する目標を達成できたと考える。 さらに上記の実証実験と並行して、チャネル競合時のチャネルボンディングの性能向上を目的として、待ち行列理論を用いた性能の解析と、動的チャネルボンディングを有効活用するためのチャネル利用方法について提案し、シミュレーションによる評価を実施した。この結果から動的チャネルボンディング時におけるフレーム集約の数を周囲の競合通信に応じて調整することで公平な性能を獲得できることを確認した。以上のことから、当初の計画以上に研究が進展している。
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今後の研究の推進方策 |
平成30年度は当初の計画通り、以下の課題に取り組む。 (1) ボンディング幅が異なる通信が混在する環境におけるチャネル割り当て手法の考案・評価 平成29年度の成果から、チャネルボンディング内において競合する通信によりボンディングする通信の性能が影響を受ける無線通信環境を考慮し、同一周波数帯を利用するAP同士が協調することで自律的に干渉を回避可能なチャネル割当を考案する。具体的には、各APは利用可能な全チャネルにおいて、他のチャネルの通信におけるチャネルボンディングとフレーム集約の状況からチャネル利用率を算出し、自身に影響する通信がどれだけ存在するのか把握する。このチャネル利用率と平成29年度の実験結果を基に、他の無線LAN通信を含めた空間上のスループットを改善可能な協調型チャネル割当手法を考案する。このチャネル割り当て手法の有効性をシミュレーション、及び実機実験により、評価する。 (2) 様々な無線LAN高速化技術の影響を考慮したレート制御アルゴリズムの考案・評価 平成29年度の実験結果から抽出したレート制御に関する実態と、(1)で算出したチャネル利用率を用いて、周辺の通信状況を考慮した適切なレート制御アルゴリズムを考案する。11acの伝送レートは符号化方式やボンディング幅、MIMOストリーム数によって決定されるが、現在の11acのレート制御手法では単純にフレームの伝送エラーに着目しレートを下げるため、チャネルの競合に関して考慮していない。そのため伝送レートを下げてもチャネルの競合は避けることができず通信性能が低下する。そこで、考案するレート制御アルゴリズムでは、周辺の通信状況を考慮し適切な伝送レートを設定することで、空間全体の通信性能の向上を実現する。そして、本方式をネットワークシミュレータ上に実装し、その有効性を評価する。
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