研究課題/領域番号 |
17K12678
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
米澤 拓郎 慶應義塾大学, 政策・メディア研究科(藤沢), 特任講師 (90596917)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 参加型センシング / 共有擬態型情報発信 / 都市センシング |
研究実績の概要 |
本研究は、一般ユーザ自身が持つスマート端末を活用し、都市地域の情報を取得可能とする参加型センシングにおいて、情報発信主体の擬態化というアプローチを採用することで、ユーザプライバシ問題とユーザのセンシング参加への動機づけ問題を同時に解決することを目的とする。擬態化の対象をセンシング対象空間の特徴を有したキャラクタ(ロケーション・モンスターと呼ぶ)とすることにより、上述した問題解決とともに、キャラクタのコレクション等ゲーム性の付与による楽しさの向上、空間およびそのコミュニティへの愛着の向上を実現する。本研究では、擬態化方式に基づいた参加型センシング手法が人々の情報発信意欲をいかに向上させうるか、実際のシステム開発と長期的な実験によって明らかにした上で、都市での実運用を目指す。研究初年度は、提案したモデルに基づき、スマートフォンアプリケーション「ロケーションモンスター」のプロトタイプを構築し、大学キャンパス内において既存参加型センシング手法と比較実験を行った。結果、本研究の仮説に基づいた、参加型センシング時における動機づけの問題、プライバシ保護の問題、情報の質の操作、に対して、本研究の提案モデルが一定の寄与を果たすことが明らかとなった。また、本研究の提案モデルの理論的側面を明らかとするため、社会学理論の観点より調査を行った。結果、ドラマツルギー理論やポライトネス理論等の社会学理論によって本研究が提案するモデルがユーザに影響しうるコミュニケーション特性を説明可能であることが明らかとなり、これらの理論のさらなる応用により提案モデルを更に洗練させうる可能性が示唆された。本研究の成果は情報処理学会ユビキタスコンピューティング学会他、国際学会においても講演を行い、前者の学会では発表の中より選ばれる優秀論文賞を受賞した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初の計画であった提案モデルによるプロトタイプ作成、またキャンパス内での比較実験を遂行し、研究成果を論文にまとめ発表を行うことができた。また、当初の計画になかった社会学理論における提案モデルの位置づけの整理や、藤沢市における一般ユーザを対象とした大規模実験に関しても一部行うことができ、その結果を現在国際学会へ向け論文準備中である。これらのことより、当初の計画以上に進展していると評価できる。キャンパス内における既存参加型センシング手法との比較実験では、19-30歳の学生を中心とした34名を対象に、既存モデル17名、提案モデル17名とわけ、1ヶ月に渡る実験を行った。総発信数は 提案モデル が 153 件、既存モデル が 114 件で 提案モデルの方が34%多い結果となった。そのうち、PointOfInterest内からの発言は提案モデル(すなわちモンスターとしての発信)は 72 件 (47%) であったのに対し、既存モデルは24 件 (21%) であった。すなわち、提案モデルがその場所からの情報発信の動機づけに寄与していることが示唆された。また、既存モデルと提案モデルにおいて、ユーザ間のコミュニケーションの量・質を分析した結果、既存モデルが多(遠隔ユーザ)対多(その場のユーザ)を意識したコミュニケーションであった一方、提案モデルでは、多対1のシンプルなコミュニケーションとなることが見受けられ、この観測事象は当初の想定にはない良い影響をもたらすことが明らかとなった。また、本提案モデルの議論過程で得られた参加型センシング手法に基づき、一般市民だけでなく自治体職員を対象としたシステムの構築・実験・論文発表も行うことができた。研究の計画、当初の提案モデルの想定にはなかった影響が実験結果より見受けられ、提案モデルの有効性が評価できた。
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今後の研究の推進方策 |
まず、1年目の研究成果を発展させ、提案モデルの有効性をより大規模なユーザを対象とした実験を行い評価を行う必要がある。本研究では都市の情報を、その場所にいるユーザからプライバシの露呈をおさえつつ情報提供の動機づけを高めて収集することが目的であるため、実際の都市に提案モデルを適用し、幅広く情報を収集可能であることを示す。特に、実社会への応用の観点では、イベントや災害時など、突発的な都市事象の変化の際に多種多様な情報を収集可能とさせることが重要である。この観点から、いくつかの市と協力し、イベントや災害時などで本提案モデルを利用できないか、検討を行う。現在、藤沢市や横須賀市など複数の自治体と本研究の応用に関して議論を行っており、2年目ではより社会応用を意識した研究開発を進めていく。また、本研究のモデルが有効に動作可能かは、その国の文化にも依存すると考えられる。日本国内においてはゆるキャラの存在などが広く認知されており、場所の擬人化などは社会的にも受け入れられる土壌ができている。国外の研究者と連携し、この提案モデルが国外においても同様に動作するか、実験を含めた研究デザインを行っていく。最後に、提案モデルに基づくアプリケーションの機能拡張を行う。すでに提案モデルに基づくアプリケーションは、iOS版、Android版とも公開を行っているが、必要最低限の機能の実装にとどまっており、広く利用されるためにはさらなる機能拡張が必要である。それらの機能拡張が提案モデルに与える影響、利点や欠点を考慮しつつ、多くのユーザに利用され、都市情報をリアルタイムに収集可能な基盤となるよう、設計・実装を進めていく。これらの研究成果を国際学会や論文誌などに投稿を行い、研究成果の社会還元を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
開発・実験用機材に関して、研究室内の既存資産が活用可能となったため、購入不要とした。また、海外学会参加費に関して、他従事プロジェクトの発表が含まれていたため、異なる資金で捻出を行ったため。次年度では、研究成果を更に進展させるため、提案モデルに基づくシステムの高度化を行い、幅広くオープンに利用可能な形で設計・実装を進める。また、異種センサデータとの連携を行うことで、都市に存在する人・モノなどあらゆる主体が連携して都市情報を生産可能なシステムを構築を目指し、その開発・運用のためのサーバ費用として利用する。さらに、著名国際学会での発表・参加費および国際論文誌採録費として使用計画を行う。
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