本研究の目的は多様な種,多様な個体のメタ認知研究を可能にする手法を確立することである。 一昨年度,および昨年度はハトを対象とした空間記憶課題の作成と検討をおこない,メタ認知の指標である観察時間と反応時間に影響を及ぼしている要因を探った。令和元年度は課題遂行時の行動をさらに調べるため,弁別課題において,使用される手がかりについて検討した。具体的には,風景画像を呈示し,水の有無について判断させ,正答率が特に高かったものと低かったものの特徴を比較した。さらには,それらの特徴を操作した画像をも弁別させた。その結果,ハトは水の有無のカテゴリ化において,複数の特徴を手がかりとして使っていることが分かった。このような複雑なカテゴリ判断が要求される課題は,メタ認知研究で使われがちな単純な刺激弁別課題に比べ,連合学習の影響を受けにくいため,メタ認知課題に適しているといえる。これらの実験からえられた結果の一部は国内学会で発表された。 メタ認知行動の種間比較をおこなうためには,複数の種で使える課題が必要である。上記の研究と並行して,イエネコを対象とした,視覚刺激課題の検討をおこなった。具体的には,記憶課題等に効果的な餌以外の報酬を探るため,感覚性強化に最適な視覚刺激を調べた。画面上の運動刺激に対する興味の度合いには,個体差があることが分かった。今回えられた観察時間や接近行動のデータは,個体ごとの性格特性と組み合わせて分析することにより,メタ認知実験に限らず,イエネコを対象とした幅広い認知研究の発展に貢献できる。
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