本研究は,自己が行為主体である感じ「主体感」と時間知覚の関連を検討した。能動的行為とその感覚結果(例:ボタン押下とビープ音)の時間間隔が実際よりも短く感じられるインテンショナルバインディング効果(以後バインド効果)が知られていた。第一年度は,健常学生を対象とした行動実験によって,能動的行為にともなう主体感がバインド効果と個人内相関することを示した。すなわち「自分がした」という感じを強く得るほどバインド効果が生じやすいことを示した。第二年度は,従来検討されてきた1回の行為と感覚結果との間に生じるバインド効果が,行為と結果の連続的系列においても生じるかどうかを調べた。能動的行為と行為結果が連続する間の主観的な持続時間が,受動的行為条件に比べて,短く感じられることを示した。このことはバインド効果が単一の行為だけでなくより日常場面に即した連続的行為においても生じうることを示唆した。最終年度は,既存データの再解析によってバインド効果が因果的に主体感をもたらすことを示した。さらに既往研究のメタ分析によって,バインド効果と主体感の相関関係が強くはなく,他要因に左右されうることを示唆した。他方で,従来の実験室環境では難しかった,他者と連動する状況における時間知覚の検討のために,仮想現実技術(VR)を用いた実験を行なった。その結果,自己行為と同期した他者行為に対しても代理的な主体感を感じること,そして自己行為中と似た時間知覚の変化が他者行為観察中にも認められた。最終年度の成果を早急に論文にまとめて査読付雑誌へ投稿する予定である。本研究の成果が主体感と時間知覚に関する知見を補完し,方法論的な示唆を今後の研究に提供することを期待する。
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