研究課題/領域番号 |
17K12704
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研究機関 | 東京電機大学 |
研究代表者 |
我妻 伸彦 東京電機大学, 理工学部, 助教 (60632958)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 神経回路モデル / Border-Ownership / 視覚的注意 / 同期発火 / NMDAシナプス |
研究実績の概要 |
図領域検出(BO)細胞が同期発火する皮質機構を理解するため、大脳視覚皮質のフィードバックをNMDA受容体シナプスが伝達する神経回路モデルを構築した。電気生理学データ(Martin & von der Heydt, Journal of Neuroscience, 2015)と同様の解析をシミュレーション結果へと適用し、NMDAシナプスがBO細胞同期に果たす役割を計算論的に検証した。 高次視覚系からのフィードバック信号を生理学的に忠実なNMDA受容体シナプスモデルが伝達する神経回路ネットワークを構築し、大脳視覚野V2におけるBO細胞の物体皮質表現特性である同期発火を算出した。このフィードバック信号は、生体の視知覚最大の特性である視覚的注意や呈示された物体の形状表現を仲介する。特に、モデルから仮想的なBO細胞反応のビッグデータを生成し、モンテ・カルロ的なデータ解析法であるJitter法を適用し、モデルが示す密な時間特性の同期発火特性を検証した。 構築した神経回路モデルは、Martin & von der Heydtにより示されたBO細胞の同期発火特性と良く一致する応答特性を示した。特に、注意によるBO細胞の応答促進と同期発火抑制を定量的に良く再現した。また、Jitter法によるデータ解析から、モデルのシミュレーションデータから密な時間特性の同期発火が確認された。これらの結果は、NMDAシナプスが高次視覚系からのフィードバックを仲介し、BO細胞の同期発火の起源となるという神経回路メカニズムを示唆する。また、視覚的注意の伝達に、NMDAシナプスが重要な役割を果たす可能性を示す点でも重要な結果である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
申請者は、情報統合の皮質表現である神経信号の同期発火メカニズムを検証するため、神経生理学的知見に忠実な神経回路ネットワークモデルを構築し、シミュレーションを行った。NMDA受容体シナプスが同期発火と注意選択に重要な役割を果たすという仮説に立脚したモデルは、電気生理実験で報告された神経細胞の多様な同期発火特性を良く再現できることが示された。これらより、神経細胞が同期する視覚皮質メカニズムの解明という研究目標を良く達成していると考える。
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今後の研究の推進方策 |
当該年度の成果から、神経細胞が同期するための主要な回路メカニズムが示唆された。今後は、この主要メカニズムを生体の厳密な神経回路ネットワークへと適用し、同期発火を通して神経回路が図領域を統合する過程を研究する。さらに、同期発火により促進される図領域統合が、注意選択に果たす役割を検証する。具体的には、電気生理学的知見と神経解剖学的知見をまとめた大規模かつ厳密な層構造の神経回路ネットワーク(Wagatsuma et al., PLOS ONE, 2013)へとNMDAシナプスが仲介するフィーバック信号を適用する。モデル細胞活動の同期と各層の連携により、時間とともに図領域が統合され、その皮質表現の疎性が変調・変異する特性を分析し、注意選択メカニズムをモデル化する。 構築する層構造神経回路モデルのシミュレーション開始直後は、各層において反応が広く分布すると予測される。時間経過とともに、細胞が同期し図領域が統合される活動応答表現が疎になる事により、注意選択が定量的に決定されると期待している。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究を実施する上で、より高性能な計算機を運用することが必要となった。次年度では、次年度使用金と次年度の研究費を合わせ、高性能計算機を購入し、大規模なシミュレーションを効率よく実施する。
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