研究実績の概要 |
研究代表者は、高次視覚領野からのフィードバックを仲介するNMDA受容体シナプスが図領域検出(Border Ownership、BO)細胞同期の起源であると考えた。脳の階層構造の中で、情報統合の皮質表現である同期発火により、図領域が統合され、これが注意選択の起源になると考えられる。この仮説を大脳視覚系の計算モデル構築とそのシミュレーションを通じて検証した。 研究代表者が構築した神経回路ネットワークモデル(Wagatsuma et al., J. Neurophysiol., 2016)を拡張し、より厳密なBO細胞同期発火の皮質メカニズムを計算論的に検証した。提案するモデルにおいて、網膜から投射されるボトムアップ的な視覚入力は、AMPA受容体シナプスにより表現される。物体識別を行う視覚経路と空間情報知覚を担う視覚経路から、フィードバックがBO細胞へと独立して投射される神経回路モデルを構築した。これらのフィードバック信号は、視野内に投射された大まかな物体形状(proto-object)だけでなく、情報の取捨選択を仲介する視覚的注意も表現する。拡張したモデルは、電気生理実験で観測されたサルBO細胞の神経活動強度と同期発火特性を定量的によく再現した。また、モンテ・カルロ的なデータ解析法をシミュレーション結果へと適用した結果、NMDA受容体シナプスからのフィードバック信号がBO細胞同期発火の起源となることが示唆された。これらの結果は、生体の視知覚形成メカニズムの解明に寄与すると期待される。本研究から得られた知見をまとめ、欧米学術論文誌PLOS Computational Biologyへ投稿する予定である。
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