本研究の目的は注意制御ネットワークの一部である前頭眼野の活動を電気刺激によって人為的に操作し、注意のゆらぎについて因果的に調べることである。そのため高精細度経頭蓋直流電気刺激法を用いて前頭眼野周辺を刺激し同時に脳波計測を行った。
実験では、ボタン押しを必要とする標的刺激の位置を示す手掛かり刺激を先行して呈示し、その後標的刺激を呈示した。手掛かりと標的刺激の時間間隔(stimulus onset asynchrony: SOA)は1±0.1秒(Short)と2.2±0.1秒(Long)とした。標的刺激は高確率(70%)で手掛かり刺激方向に出現するが、いつ出現するかは不明なため、被験者は手掛かり刺激方向に注意を向け続ける必要がある。本課題遂行中の陽極、陰極、または疑似電気刺激下で脳波を計測した。
擬似電気刺激条件で、手がかり方向への注意の持続性について調べた。SOAがShort条件では手掛かり刺激と同じ位置に出現した標的刺激の弁別成績は他の位置に提示された条件よりも高く、手掛かり効果が観測された。一方、Long条件では手掛かり効果がなくなっていたことから、2秒程度でも注意が手掛かり方向に維持されていないことを示している。一方、陽極刺激を与えた場合はLong条件でも手掛かり効果が持続していた。さらに陰極刺激ではShort条件でも手掛かり効果がなくなっていた。次に、前頭眼野周辺の脳波において、手掛かり刺激呈示後、約100-500msの間で持続的なシータ帯域での位相リセットが起った。また、リセットのオンセットは擬似刺激と比べて陽極刺激では早まり、陰極刺激では遅くなっていた。このことから電気刺激によって注意を移動する速度や持続性を変調でき、前頭眼野がその制御の役割を果たしていると考えられる。
|