研究実績の概要 |
東アジア人にとって日常的動作である箸操作について,その運動学的特性をモーションキャプチャーシステムを用いて計測した.さらに,箸操作の前後に,手指による到達把持動作を行い,前後の把持動作特性を比較することで,箸操作経験が身体図式にどのような影響を与えるかについて検討した.箸操作に習熟している定型発達の若年日本人男性(全員右利き)が実験に参加した.実験では,長さ22.5 cmの箸を使用し,把持対象物体として大きさの異なる3種類の食品サンプル(巻き寿司)を選定した.実験参加者は,3つの実験セッション,すなわち,1. 手指把持動作(Pre), 2. 箸操作(Tool), 3. 手指把持動作(Post)を行った.把持物体はランダムに提示された.動作中に記録される,親指・人差指間(箸先端間)距離最大値を計測し,対象物体の大きさに応じた指間(箸先端間)距離調節の指標として,物体の大きさに対する指間(箸先端間)距離最大値の回帰直線の傾き値を算出した.傾き値について,Pre, Tool, Post間で有意差は認められなかった.個人ごとに,ToolとPreの傾き値の差(Tool-Pre)とPostとPreの傾き値の差を算出したところ,Tool-Preの正負符号と,Post-Preの正負符号が,参加者13名中12名で一致した.この結果は,習熟した箸利用者においても,短期的な箸操作の使用が後続の手指把持動作の把持スケーリングに影響することを示唆している.
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