研究課題
前年度に引き続き,道具の身体化メカニズムを検討するために,把持対象物体である寿司サンプルへの箸操作,到達把持動作を課題とする実験を行い,その運動学的特性を検討した.本研究課題では,東アジア人の日常的な道具使用の典型例である箸操作に注目する.箸操作課題(TOOL条件),到達把持動作課題(HAND条件,統制条件)の前後に到達把持動作を行い(PREセッション, POSTセッション),それぞれの課題条件が(PREセッションと比べたPOSTセッションの)到達把持動作に及ぼす影響を検討した.その結果,把持成分の1つの指標であるプラトー時間(指間距離最大値の90%を記録した時間から指間距離最大値を記録するまでの時間)が,TOOL条件のPOSTセッションにおいてHAND条件のPOSTセッションより有意に長くなった.このことは,箸操作後の手指把持における箸操作固有の影響があり,箸操作に習熟していると考えられる日本人参加者において,箸操作と手指把持の切り替えが適切に行えないこと,あるいは,短時間の箸操作であっても身体図式が再調整されることを示唆している.また一方で,プラトー時間以外の指標において,PREセッションとPOSTセッション間の有意差は,TOOL条件だけでなく,HAND条件においても認められた.このことは,巻き寿司の食品サンプル(外見はリアルだが本物の食べ物ではない)を把持することは参加者にとって,日常的でない,習熟していない行為であった可能性がある.
3: やや遅れている
開始年度時の所属先異動に加え,本課題実施1年目の終わりに,実験室の変更により,装置の移動,再セットアップを行う必要が生じたため,当初の予定よりも実験実施に遅れが生じた.また,自閉スペクトラム症者の実験を当初計画していたが実施が難しい状況となった.そこで代替策として,大学生を中心に実験参加者を募集し,知能が健常範囲である成人の自閉症傾向を測定できる「自閉症スペクトラム指数(AQスコア)」に回答してもらうこととし,運動学的特性とAQスコアの関連を検討した.
遅れの生じた実験実施を速やかに完了し,データ解析,考察を行い,論文執筆を行う予定である.
研究実施期間中に,申請時に想定していなかった,実験室の移動があり,実験装置の解体,再構築を行う必要があったため,2018年度内での論文投稿が難しくなった.そこで,英文添削費等の費用として,上記の次年度予定額を計上する.
すべて 2018
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (2件) (うち国際学会 1件)
Frontiers in Human Neuroscience
巻: 12 ページ: 1-12
10.3389/fnhum.2018.00430