計画最終年度となる2019年度は、本研究課題の柱である酪農現場での時系列データ収集を目指し、酪農関係企業の協力のもと、商用牧場での継続的かつ自動システムによる三次元画像収集を実現した。また、初年度より継続して行っている乳牛の個体識別に関して国際学術誌に論文が掲載された。自動撮影、個体識別、および歩容解析による軽度跛行の早期検出を組み合わせたシステムの構築がほぼ完了し、商用牧場での試験運用を開始した。 研究期間全体を通じて、酪農学園大学(60頭規模)と大規模牛舎(1200頭規模)におけるスポット撮影、および商用牛舎(60頭規模)における継続的な自動撮影を行ってデータを獲得している。これらのデータにはそれぞれ個体番号・健康状態スコア・三次元歩行映像列が付与されており、国内のみならず世界的に見ても非常に貴重なデータセットが構築できた。 歩行映像解析技術としては、歩行時の特徴量を用いた個体識別および乳牛の蹄の疾病である跛行を早期に発見するための検出手法を構築した。具体的には、蹄の状態を5段階で表すロコモーションスコアについて、スコア2(軽度の蹄病)の段階で発見するアルゴリズムを開発した。乳牛の三大疾病の一つといわれる蹄病の早期検出の自動化は、酪農現場で強く待ち望まれた技術であり、コンピュータビジョン技術の重要な応用となる。また、長期撮影に基づく新たな歩容特徴については、乳牛のみならず人物の映像解析に対する寄与も大きいと考え、高齢者の認知症の早期検出を対象とした歩行映像解析アルゴリズムも設計した。特に、被験者の慣れや経時変化が歩行状態に顕著に現れており、これらの情報が認知症や軽度認知障害(MCI)の検出に寄与することを明らかにした。
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