本研究は乗算出力トランスデューサと,自らが提案している多入力型ΔΣ変調器(MIDS)を併用した新しい多チャンネル駆動法を実現しようというものである。前年度までに基礎理論を構築し,それら再生原理を用いたスピーカアレイの試作実験により有用性を確認していた。そこで,本年度は本提案法の実用および発展の観点から,以下の検討を行った。 ・原理的に乗算機構を構築し得るスピーカアレイ 提案法は配線を共通としながらも各素子を個別に駆動できる特徴を有しており,それにより極めて少ない配線数で多チャンネル駆動を実現している。ただし,その前提として各スピーカが乗算結果に比例した出力を行うことを前提としており,受動素子ではあるがダイオード等の非線形素子で乗算機構を設置する必要があった。そこで,温度変化に応じて二乗波を出力するサーモホンの特性に着目し,1bit駆動と組み合わせ再生原理そのものに乗算機構を含んだ駆動法を提案するとともに,カーボンナノチューブを用いた基礎実験により実現性を確認した。これにより提案法が電極と素材のみで構築することが可能であり,構造的に極めて簡潔な多チャンネル駆動を行う可能性が示された。 ・マイクアレイとの併用による音場伝送実験 本研究の一つの成果物として,提案法を用いた256chのマイクロホンアレイ-スピーカアレイシステムを構築した。本装置により波面そのものを含むリアルタイム音場通信が可能となることから,今後の音場制御,音コミュニケーション分野への寄与が期待される。
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