研究課題/領域番号 |
17K12735
|
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
五十嵐 康彦 東京大学, 大学院新領域創成科学研究科, 客員共同研究員 (40733085)
|
研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
|
キーワード | スパースモデリング / フーリエ基底 |
研究実績の概要 |
計測において,これまで最も広く用いられている手法は,フーリエ変換後の周波数空間での計測である.しかし,計測時間の制約や計測器の性能限界による不可避の観測ノイズやデータ数の不足によって,得られたデータから現象を説明する周期性を抽出することが困難になりつつある.この困難を,データに普遍的に内在するスパース(疎)性を利用するスパースモデリング(SpM)によって解決する.特に,本研究では,自然データに内在する物理特性を取り入れたSpM手法を開発し,様々な自然データに耐えうるSpM手法の確立とテータ解析問題への進展を目指す.本年度は具体的に次の課題に取り組んだ.
【課題A】物理特性を組み込んだ,フーリエ計測のSpM手法開発:基底の次元Pがデータ次元Nに比べて少ない場合(N>P),誤差関数を0とするパラメータは,不定となる.そこで,正則化により解を絞り込む.重みの絶対値(L1)正則化では,パラメータを0にするような解を選ぶようになり,スパースな解を抽出できる.本研究では,実データ解析における物理特性においてフーリエ基底が少数であることを仮定して,LASSOを適用し,高周波ノイズを抑制しつつ基底抽出する枠組みを構築した.
【課題B】フーリエ基底を用いた実計測データへの応用:課題Aで開発した手法をフーリエ基底を用いた実計測データである脳科学データに適用した.具体的には,神経活動から視覚の応答特性である受容野高速推定に適用することで,従来手法に比べて10分の1ほどの計測データで精度のよい応答特性を得ることができた.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
【課題A】物理特性を組み込んだ,フーリエ計測のSpM手法開発については英文学術論文としており,順調に研究課題は進捗している.さらに当初,平成30年度に予定していた,脳科学データや津波データの実データ解析(【課題B】)を既に取り組んでいる.さらに,実データ解析において,フーリエ基底以外にも重要な基底があると考えれる.そこで,津波予測にとって重要な基底を,波形データから抽出し,その上で重要な計測点をスパースモデリングによって抽出した.その実データ解析によって従来法より優れた予測結果を出し、英文学術論文として採択された.以上より,当初の計画以上に進展していると評価できる.
|
今後の研究の推進方策 |
【課題B】実データ解析での課題をフィードバックすることで,引き続き【課題A】物理特性を組み込んだ,フーリエ計測のSpM手法の基礎的手法の開発を行う.具体的には,広範囲に通常のLASSOでは周波数応答へのSpMを適用する上で,各フーリエ基底への正則化パラメータλは一定のため,測定ノイズが大きすぎると,不要な高周波成分が抽出される.一方,各周波数ごとに正則化パラメータを最適化するとパラメータ数が多くなって,最適化に必要な時間が膨大になってしまう.そこで,本研究では,フーリエ基底の波数kとしてLASSOにおける正則化パラメータをλk=λkαとして,重み付けパラメータαの最適化しつつ周波数に対応して重みづけし,低周波数と高周波数の基底のλ1,λ2に対してλ1<λ2として高周波ノイズを抑制しつつ基底抽出する枠組みを構築する.さらに,周波数依存の正則化パラメータのモデルをより一般化して,λk=f(α,λ; k)を考える.各々の物理現象に特化した事前知識を利用して正則化パラメータのモデルを構築する.これによりS/N比が低い計測回数の少ないデータからも,系の特徴を捉える重要なフーリエ基底を抽出する枠組みを提案する.シミュレーションデータに対し提案手法の評価を行うとともに,Fused Lasso, 縮小ランク回帰といった物理構造を恣意的に導入している先行研究との比較を評価する.
|
次年度使用額が生じた理由 |
本年度は,小規模なデータを用いた基礎研究を重点的に行なったため,既存の計算機資源を活用することで物品費を抑えるとともに,成果発表のための旅費を翌年に繰り越すため,次年度使用額が生じた.本年度は,昨年度までの基礎研究の成果を国際学会等で積極的に発表することで旅費を計上するとともに,大規模計算を見据えて,物品費を計上する計画である.
|