研究実績の概要 |
研究期間の最終年度である2021年度は圧縮センシングの限界打破に向けた応用的な研究を行った。具体的には、ノイズが無視できなくかつ得られるデータ量も限られているような計測においてTotal Variation 正則化と呼ばれるアルゴリズムを用いて真の信号を推定する場合の圧縮センシングについて研究を進めた。隣り合う信号成分の差の絶対値の和を正則化項にもつ最小二乗法を解くことにより信号を推定するアルゴリズムであるTotal Variation 正則化は, 連続的な性質をもつ信号推定を多項式時間で行えることからノイズ有り圧縮センシングやスパースモデリングに基づくデータ解析にしばしば用いられる。 特に、物質科学の計測手法であるコンプトン散乱により得られるデータであるコンプトンプロファイルからフェルミ面や電子運動量密度分布の情報を得ることを想定して研究を進めた。コンプトン散乱は、医学におけるComputed Tomography (CT) のように、様々な方向からX線を照射し物質の内部情報を明らかにする手法であるが、照射できる方向の数が従来のCTと比べて限られているため、得られるデータ量が非常に少ない。そこで、スパースモデリングを用いる。特に、物質の電子運動量密度分布は多くの場所で連続的であり、急峻に変化する場所はフェルミ面など限られていることが知られているため、Total Variation 正則化が有効であると考えらえる。計測をシミュレートしたデータに対してTotal Variation 正則化を適用することにより、その有効性を議論した。
|