研究課題/領域番号 |
17K12754
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
村田 真悟 早稲田大学, 理工学術院, 助手 (80778168)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 認知ロボティクス / 計算論的精神医学 / 神経回路モデル / ニューラルネットワーク |
研究実績の概要 |
本研究課題では,精神障害における多様な症状を生み出す脳・神経メカニズムをロボット構成論によりシステムレベルで統合的に理解することを目指している.具体的には,不確実性を考慮した予測誤差最小化原理が脳の神経回路における基本的な計算原理であるという仮説を提案し,その仮説を神経回路モデルで具現化し,ロボットに実装することで評価を行う. 平成29年度は,同原理に基づく階層的な神経回路モデルの構築,ロボットの認知タスクデザイン,ロボット実験による正常モデル及び異常モデルの評価を行った.モデル構築においては,これまでに申請者が提案してきた感覚運動情報の不確実性を予測学習可能なStochastic Continuous-Time Recurrent Neural Network (S-CTRNN)にParametric Bias(PB)と呼ばれるニューロンを付与することで階層性を持たせた.構築したモデルを実装した小型ヒューマノイドロボットを直接教示することで認知タスク(他者との協調インタラクション課題)を学習させた.このようにしてロボットは正常モデルを獲得するが,さらにその正常モデルによって推定される不確実性を強制的に増幅・減少させることで異常モデルも構築した. 正常モデルにおいてはロボットの外部環境に変化が生じた際,推定された不確実性によって適切に重み付けされた予測誤差が上位回路のPBまで伝播することで,行動の切り替えが実現された.一方,異常モデルにおいては,行動切り替えが困難であることや同一行動への固執・硬直といった多様なふるまいが観測された.これは,モデルによって推定された不確実性を強制的に書き換えることで,誤差信号が減少・増幅することによって生じたと考えられる.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
平成29年度は,(1)神経回路モデルの構築,(2)ロボットの認知タスクデザイン,(3)ロボット実験による正常モデルの評価を行う予定であった.しかし,これまでに構築してきたモデルや取得した学習データの一部を再利用することで研究を加速し,これらに加え,平成30年度に行う予定であった病態メカニズムの理解を目指した研究の一部にも着手することができている. その結果,不確実性を考慮した予測誤差最小化原理に基づく正常モデルと異常モデルの比較検討を行い,実際に,推定された不確実性がロボットの知覚・行動に大きく影響することを確認することができた.現段階において,これらの実験結果と認知神経科学や計算論的精神医学の分野で近年注目されている知見との対応関係を議論し,一致点・相違点について考察することもできている. 現段階において得られているこれらの結果については国内の学術講演会・査読付き国際会議において発表しており,学術雑誌論文としてもまとめ投稿済みで現在査読中である. 以上より,現在までの進捗状況は当初の計画以上に進展していると評価することができると考えられる.
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今後の研究の推進方策 |
精神障害の病態メカニズムの理解を目指した研究として,(1)不確実性に関する推定の破綻がもたらす影響の検討と(2)不確実性に関する推定の破綻をもたらす原因の検討を行う必用がある.これまでの研究は主に(1)を行ってきたため,今後は(2)の研究に着手する.具体的には,平成29年度の学習実験で用いたモデルのメタパラメータ(ニューロン数やニューロンの活動時定数)を操作し,再び学習実験を行うことで検討する.また,教示時系列の操作(データ数の減少や増大)も行い,感覚運動経験の違いによる学習結果の影響も調べることで,学習段階における不確実性に関する推定の破綻を考察する.これらの研究はロボット実験のみならず,シミュレーション実験も駆使することで研究の進展の加速を目指す.これらの研究を通して,発達的精神障害モデルを構築し,知覚・行動に関する異常性,幻覚・妄想・コミュニケーション障害といった多様な病態メカニズムの原理説明を試みる. 研究が順調に進展した際は,ロボット実験で使用する認知タスクの複雑性をあげる予定である.また,現段階ではロボットの視覚情報として画像処理によって低次元化した画像特徴量を使用しているため,より高次元の画像情報を扱ったり,聴覚情報等のモダリティを追加することも検討する. 本研究は認知神経科学・精神医学・ロボティクス・機械学習等の学際的研究であるため,学会発表やワークショップへの参加,ロボット実験のデモンストレーション,ウェブページでの研究資源の開示を通して幅広い分野の研究者と交流し議論を深める.
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額は,当初の計画では小型ヒューマノイドロボットの購入に今年度使用する予定であった.申請者の所属する研究室が保有するロボットを使用することができたため,今年度は使用しなかった. 次年度は所属変更に伴いロボットを購入する必用があるため,ロボットの購入に充てる.
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