本研究の目的は,指の自由度を利用して手の中で物体を操るイン・ハンド・マニピュレーションを工学的に実現することである.イン・ハンド・マニピュレーションはロボットハンドで実現された例がほとんどない.その理由の一つとして,モデルベースな制御法が用いられてきたためにモデル化誤差に対して脆弱であったことが挙げられる.そこで本研究ではモデルを必要とせずにイン・ハンド・マニピュレーションを実現する操り戦略を提案し,その性能について実験的に評価・検討する. 昨年度に製作したロボットハンドのための把持力教示装置では,教示者がロボット指に直接力を印可し,それをロードセルで計測することでアクチュエータの教示トルクを生成していた.しかし,教示者の指先がもつ柔軟性によって,応力中心位置が不安定となり,適切な教示トルクを生成できないことが分かった. 本年度はアドミッタンス制御によるマスタ・スレーブシステムを構築し,アクチュエータの出力トルクをトルクセンサによって計測可能な教示システムの開発を目指した.まず,人間がイン・ハンド・マニピュレーションを教示できるようにマスタ・スレーブシステムの操作性を決めるインピーダンスパラメータの設定指針について検討を行った.インピーダンスパラメータである目標慣性及び目標ダンピングが与える制御性能への影響について理論的に解析し,その解析結果の有効性を実験的に確認した.解析結果に基づき,インピーダンスパラメータの設定指針を明らかにした.最後にマスタ・スレーブシステムを用いて,平面内において多角形対象物を回転操作するためのイン・ハンド・マニピュレーションの教示軌道生成実験を行った.操りを成功させるために必要な2本のロボット指の回転トルク及び回転角度の教示軌道を生成できることを実験的に確認した.
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