研究課題/領域番号 |
17K12767
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
曽 智 広島大学, 工学研究科, 助教 (80724351)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 感性情報学 / 感性計測評価 / 匂い / 生体信号 |
研究実績の概要 |
本研究では,匂い刺激に対して主観評価アンケートから得られる感性指標が予測可能な人工官能検査アルゴリズムの構築を目指して,脳科学分野において発展した脳活動の非侵襲計測技術(fMRI)や心理学的実験手法に,これまで応募者が構築した各種嗅覚系モデルと生体信号計測評価技術を駆使して,次の4項目を達成目標とする.1)匂い刺激に対する自律神経活動と感性指標の関係を明らかにする.2)匂い刺激が誘起する脳活動と感性指標の関係を明らかにする.3)脳活動―自律神経活動―感性指標の関係を説明可能な数理モデルを構築する.4)匂いの感性指標予測アルゴリズムを開発する 本年度は,当初の予定通り,各種計測機器を制作・購入して実験条件と実験環境の整備を進め,自律神経活動と感性指標の関係を明らかにするとともに,脳活動計測に向けた予備実験を行った(目的1,2に対応).まず,文献[Lundstrom et al. 2011]に基づいてコンピュータ制御可能な匂い暴露装置を製作した.本装置は匂いカプセル中を通る空気を電磁弁の開閉によって制御している.電子制御により匂いをパルス状に被験者に提示することで被験者の順応を防ぎ,匂い射出口を鼻先に入れてキャリアガスを噴射し続けることで残り香の影響を防ぐ.本装置を用いて,被験者に数種類の匂い(T&Tオルファクトメータ,第一薬品産業(株))を提示し,心電と呼吸,血圧,ならびに,指尖容積脈波を計測するとともに,匂いに対する主観評価データを採取した.そして,自律神経活動から得られた指標と感性指標の間の関係について検討し,血管剛性と感性指標の第一主成分の間に中程度の相関があることを発見した(国際会議発表).
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成29年度は次の項目を実施することを予定していた.1)匂い暴露装置の製作,2)匂い刺激実験,3)脳活動計測予備実験 研究実績の概要に述べた通り,1項については文献[Lundstrom et al. 2011]に基づいてコンピュータ制御可能な匂い暴露装置を製作した.2項については,被験者に数種類の匂いを提示し,心電と呼吸,血圧,ならびに,指尖容積脈波を計測した.そして,末梢の自律神経応答の指標である血管剛性を推定し,匂いに対する主観評価データと比較した.本成果は国際会議において発表する予定である.また,3項については匂い暴露装置の一部を改修し,暴露装置本体から伸展するガスチューブを導波管からシールドルーム内に入れて被験者の鼻先まで届くように延長し,被験者に匂いが提示できることを確認した. 以上のように当初の予定通りの進展があったため.
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今後の研究の推進方策 |
平成30年度以降はfMRIによる脳活動と自律神経活動を同時計測し,感性指標との対応を明らかにするとともに,これを説明可能な数理モデルを構築する.このモデルと応募者が開発した糸球体層の活動パターン予測モデル[Soh et al. 2011, Soh et al. 2016]を統合し,匂い分子のグラフ構造を入力とし,脳活動と自律神経活動の応答をシミュレート可能な感性予測モデルの構築を行う. まず,笹岡准教授(研究協力者・広島大)の協力のもとでfMRI内における匂い刺激実験プロトコルの策定を行う.なお,本年度の成果より,不快な匂いに対する血管剛性の応答が顕著であるため,平成30年度は不快臭の提示を優先的に行う予定である.そして,脳活動と自律神経活動の同時計測を行い,脳活動と自律神経活動,そして感性指標の関係を多変量解析により明らかにし,感性指標や自律神経活動に影響を及ぼす脳機能部位を特定する.本実験は平成30~31年度まで継続して行う予定である. 得られた脳活動と生体信号データを解析するため,これまでに応募者が構築した神経活動の相互作用から匂いの類似度感覚が予測可能な嗅覚系モデル[たとえばSoh et al. 2016]を拡張し,コネクショニスト的観点からの脳活動―自律神経―感性指標の相互作用を説明可能な数理モデルを構築する.具体的には,自律神経活動と2)項の解析結果に基づいて分割した脳機能部位に関してそれぞれに状態変数を割り当て,匂い刺激が与えられたときの変動を確率的状態遷移モデルによりモデル化する.そして,2)項で計測した脳活動と自律神経活動の時系列データを用いてパラメータを決定するとともに,本モデルを用いて予測可能な感性を考慮した感性指標軸を明らかにする.
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度は予備実験のため,外部から実験に必要な装置を借受て動作確認を行ったため.
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