本研究では,匂い刺激に対する感性指標が予測可能な人工官能検査アルゴリズムの構築を目指して,脳科学分野において発展した脳活動の非侵襲計測技術(fMRI)や心理学的実験手法に,これまで研究代表者が構築した各種嗅覚系モデルと生体信号計測評価技術を駆使して,以下4項目を達成目標とする.1)匂い刺激に対する自律神経活動と感性指標の関係を明らかにする.2)匂い刺激が誘起する脳活動と感性指標の関係を明らかにする.3)脳活動―自律神経活動―感性指標の関係を説明可能な数理モデルを構築する.4)匂いの感性指標予測アルゴリズムを開発する. 最終年度は,約10m離れたfMRIボア内の被験者に匂いパルスを与えることが可能なコバル方式の匂い提示装置を用い,呼吸と同期した匂いパルスを被験者に繰り返して与え,fMRIを用いて脳活動と自律神経活動を同時計測した.そして,脳活動と自律神経活動,および,感性指標の関係を解析するため,統計構造を内包したニューラルネットLog-linearized Gaussian Mixture Network(LLGMN) を用いた新たな回帰アルゴリズムを提案した.自律神経活動(血管粘弾性指標と心拍変動指標)を独立変数,感性指標を従属変数とする回帰分析を行った.その結果,不快臭刺激に対する感性指標について0.8以上の高い決定係数が得られ,自律神経活動指標から感性が推定できる可能性を示した. 本研究課題では期間を通して,ラット嗅球表面に分布する糸球体の活動予測モデル,当該活動から人間の匂い質感覚が予測可能なニューラルネットモデル,および,匂い刺激に対する人間の自律神経活動を情動感覚(快・不快)に回帰可能なニューラルネットモデルを提案し,脳活動と自律神経活動の関係を解析した.これらの研究成果は,客観的な匂い感性評価の実現に資する.今後は多種多様な匂いや混合臭への応用可能性について検討する予定である.
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