2019年度は,本研究課題の最終年度にあたり,申請時に書いた研究目的を達成できるように研究を進め,まとめの作業を行った。 公刊書籍は4点ある。『AI時代の「自律性」』では,人間を含む生物と機械との異同を徹底的に論じた。人間の自律性と機械の自律性はいったい何が違うのか。人間のもつ他律性はいったいどのように理解すればよいだろうか。こうした今後の社会を左右する重要な問題に焦点を当てた。ほかに学術書の1章を共著で担当し,AIやロボット,サイボーグの根底に横たわる思想や,20世紀以降の社会イメージの変遷についてまとめた。研究成果の社会への還元として一般向け書籍を2点刊行している。『AI倫理』では,コンピュータが人間をはるかに上回る頭脳をもつというシンギュラリティ論を批判的に捉え,そこから未来のあるべき倫理の方向性を述べた。自動運転や監視選別社会,AIと創作についても取り上げた。『AI × クリエイティビティ』では,AIによる自動的な創作がクローズアップされている状況下で,人間が本質的にもつ唯一無二性や分からなさから表現・創作を考えていく必要性を論じている。 論文は2点,学会での登壇は3回あり,このほか政府系の構成員を複数務め,研究成果を活かした発言を行うように心がけた。講演を2度行い,エッセイも1本ウェブマガジンで公開した。メディアからの取材対応も積極的に行った。 実施した社会調査に関しては,まだ未公開にとどまっている部分もあるが,2020年度に刊行する学術書で調査結果について記述する予定である。サイボーグ倫理の研究成果についても同書籍で収録予定である。 3年間にわたる研究で,当初の研究目的に沿う成果が十分に得られたと判断している。
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