研究課題
手術現場において,看護師が医師へ手術器械を効率的に受け渡しできることは,手術時間の削減や医療安全の向上に寄与する.本研究では看護師の手術器械操作の教育に着目し,操作方法の定量評価およびそれを基盤とした学習支援システムを提案する.具体的には,手術中の看護業務を定量的かつ自動的に計測・評価し,数学的解析手法を用いてモデル化を実現する.これにより,新人看護師は手術室以外での技能評価および器械出し学習を可能とし,医療安全と教育の質の双方の向上を目指す.本年度に得られた結果として,(1) 手術室内で手術器械の自動認証を行うため情報取得システムを開発し,手術中に器械台へ載せられたRFIDタグ付き手術器械を認識できた.さらに,臨床評価試験を実施し,実際の手術環境において情報取得精度を検証した.結果として,乳腺外科手術の15例で本システムを使用し,95.7%以上の認識精度が得られた.一般のアンテナを用いた場合,認識精度は50%以下であったことから,手術器械の操作を自動取得する手法として,本システムは有効であることが示された.また,(2) 新人看護師と熟練看護師の手術中の手術器械操作に関する情報取得を行い,操作方法の違いを検討した.特に,新人であるほど手術器械の本数や直前操作の残存器械などが多いと考えられる.さらに,手術進行に応じて使用する手術器械の使用傾向が取得できた.平成30年度は,手術室内で取得した情報を用いて工程評価および技能分類を行う.また,器械出し技能の評価モデルを構築するため客観的評価手法を検討する.
2: おおむね順調に進展している
本年度の目的として,(1) RFIDタグ付き手術器械とその情報取得システムを開発し,臨床評価試験から手術中の手術器械情報を取得する,(2)定量評価手法による理想的な器械出し業務の抽出を行うため,統計的手法による工程解析の基礎的検討を行うこととした.(1)RFIDタグは個体識別ができることから,メイヨー台に載せられた手術器械の種類を特定できる.これまでに,本研究ではメイヨー台に載せて使用可能なアンテナを開発し,手術室内で手術器械情報の取得を試みた.本年度は,RFIDタグ付き手術器械の情報取得システムを用いて,乳腺外科手術15例において臨床評価試験を行った.操作者の看護師は5名であり,当初予定した熟練看護師だけでなく,新人看護師の操作状況も取得できた.一方で,ソケイヘルニア術式の情報取得においては,内視鏡下手術の適用が多いことから,モデル化のために必要なデータが十分に得られていない.来年度は,本年度に引き続き基礎データの取得を行うとともに,熟練看護師のモデル作成およびその有効性を検証する.(2)手術中に得られた手術器械情報から,各手術工程を4種類程度(切開,腫瘍摘出・検体提出,結果返却,縫合)に分けられることがわかった.さらに,器械出し業務の特徴量抽出では,手術器械の種類やメイヨー台上での滞在時間等をパラメータは現在検討中である.手術の進行状況に応じて,メイヨー台に載せられる手術器械の種類に一定の傾向が見られることから,特徴量のパラメータとして検証を行う.一方で,ビデオ撮影した動画から正解データの抽出を進めており,モデル作成については引き続き検討を進める.
本年度に引き続き,新人看護師および熟練看護師の器械出し作業を取得し,特に熟練看護師の器械出し技能を評価するための基礎的データを収集する.具体的には,手術中のRFIDタグ付き手術器械の情報から,使用手術器械の特徴量抽出手法について検討する.さらに,器械出し技能の評価モデルを構築するため,機械学習を用いて,熟練看護師による理想的な器械出し作業モデルと新人看護師による作業の分類を行う.作業の各フレームにおける,熟練と新人の看護師の各遷移確率を分類することで技能の客観的評価を実現する.学習モデルの算出プログラムは,MATLABで開発する.これまでに,手術器械の組み立て作業において統計的手法(隠れマルコフモデル等)を用いた評価を試みている.まずは本手法を用いて,手術中の器械出し作業モデルを構築する.本研究では,技能習得における実践的試みを手術室内で行うのではなく,事前に学習支援システムで経験を積み重ねることで学習効果を得ることを目標とする.そこで,RFIDタグ付き手術器械を用いた,器械出し業務の学習支援システムを開発するため,その基礎となる.さらに,開発したモデルを用いて,映像に合わせて手術器械の受け渡しを行うソフトウェアを開発し,それと連携するRFIDタグシステムによって手術器械の操作情報を取得する.
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