研究課題
手術現場において,看護師が医師へ手術器械を効率的に受け渡しできることは,手術時間の削減や医療安全の向上に寄与する.本研究では看護師の手術器械操作の教育に着目し,操作方法の定量評価およびそれを基盤とした学習支援システムを提案する.具体的には,手術中の看護業務を定量的かつ自動的に計測・評価し,数学的解析手法を用いてモデル化を実現する.これにより,新人看護師は手術室以外での技能評価および器械出し学習を可能とし,医療安全と教育の質の双方の向上を目指す.本年度の成果として,(1) 手術室内でRFIDタグ付き手術器械の自動認証を行うため情報取得システムを開発し,臨床評価試験を実施した.結果として,乳腺外科手術の4例,ソケイヘルニア手術で2例の情報取得を行った.これらの成果は投稿論文として発表した.さらに,(2) 複数器械台でRFIDタグ付き手術器械の情報取得をおこなうためのアンテナを設計した.さらに,手術進行状況に関する状態遷移モデルを試作し,その仕様について検討した.2019年度は,手術中の作業モデルを改善し,そのモデルの評価を行う.国内外で手術中のワークフローを解析する手法は構築されているものの,手術器械(特に鋼製小物)を使用した研究はなく,新規性は高いと考えられる.さらに,技能評価手法と学習支援システムの有効性を検証し,これらの成果を論文としてまとめる.
3: やや遅れている
本年度の目的として,(1) 機械学習を用いた器械出し技能の評価モデルの構築,(2) RFIDタグ付き手術器械を用いた器械出し業務の学習支援システムの開発を行うこととした.(1) 手術室内でRFIDタグ付き手術器械の自動認証を行うため情報取得システムを開発し,臨床評価試験を実施した.結果として,乳腺外科手術の4例,ソケイヘルニア手術で2例の情報取得を行った.ソケイヘルニア手術については,セット内の手術器械使用率について算出でき,平均で50%となった.これは,先行研究で得られた使用率58%の報告と同様の結果であり,手術器械セットの最適化に向けた検討を行う.さらに,手術器械の使用状況(手術での使用の有無)について検知可能なソフトウェアを開発し,セット組み中でも手術器械の使用率を記録できることとなった.(2) 複数器械台でRFIDタグ付き手術器械の情報取得をおこなうためのアンテナを設計した.本デバイスが実現することで,手術中の手術器械が「使用中」または「器械台上」なのかを判断できる.本年度中にデバイス完成予定だったものの,設計・調整に時間を要したため,本年度中の臨床使用は実現しなかった.引き続き調整を進め,2019年度中の完成・臨床応用を試みる.さらに,MATLABを用いて手術進行状況に関する状態遷移モデルを試作し,その仕様について検討した.分析に使用した手術件数が少ないため,個人差による影響を受けやすく過学習状態となった.使用するモデル開発手法を検討する.また,データの分析手法についてドイツのスマート治療室を開発する研究チームとディスカッションを行い,そのデータ連携を進めることとなった.
本年度に引き続き,新人看護師および熟練看護師の器械出し作業を取得する.さらに,器械出し技能の評価モデルを構築するため,機械学習を用いて,熟練看護師による理想的な器械出し作業モデルと新人看護師による作業の分類を行う.具体的には,手術中のRFIDタグ付き手術器械の情報から,使用手術器械の特徴量抽出手法について検討する.たとえば,Business Process Simulation等を参考に,熟練者モデルの検討を進める.本モデルの開発後は,RFIDタグ付き手術器械を用いた,器械出し業務の学習支援システムを開発する.現在,乳腺外科手術やソケイヘルニア手術の器械出し映像データが蓄積されつつあり,熟練看護師と未熟練看護師の器械出しに特有のパタン(器械本数,準備状況など)が存在することがわかった.観測された情報を中心に,データからその特徴点を抽出するためのソフトウェアを開発する.さらに,本システムに必要な情報取得用アンテナの開発も並行して進める.
情報取得用アンテナの開発および臨床使用を予定していたが,設計と調整に時間を要し,今年度中の発注が困難となった.2019年度はすでに調整した設計図をもとに基盤等の発注を行う.
すべて 2018
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (2件) (うち国際学会 2件)
Surgical Innovation
巻: 25 ページ: 374~379
https://doi.org/10.1177/1553350618772771