研究課題/領域番号 |
17K12810
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
鄭 峻介 北海道大学, 北極域研究センター, 博士研究員 (40710661)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 炭素循環 / 周北極域 / 森林生態系 / 衛星観測 / 気候モデル / 樹木年輪 / 気候変動 |
研究実績の概要 |
衛星観測データと全球気候モデル生態系純炭素吸収量(NPP)出力の周北極広域(>50N)データセットのダウンロードが完了した。衛星観測データはGlobal Inventory Modeling and Mapping Studies (GIMMS)の衛星観測データ NDVI vergion g (NDVIg)、及びその後継版である NDVI version 3g (NDVI3g)、全球気候モデル出力は、第5期結合モデル相互比較計画(CMIP5)に参加した11個のモデルの計算結果である。衛星観測データおよびモデル出力(NPP)結果と気象データとの相関係数の空間分布を周北極広域で求めた。気象データはすでにダウンロード済みの Climate Research Unit (CRU)の 0.5°グリッドデータを使用し、各全球気候モデルのNPP出力との比較の際には、各全球気候モデルにより計算されたそれぞれの過去の気象データを用いた。相関係数の計算は既に実施済みの樹木年輪解析と同様に、当年と前年の気象データを対象として実施した。 衛星観測データ(NDVI3g)と樹木年輪の周北極域広域データセットの相互比較を通して、北極域生態系(>67N)では独立した両指標から求めた生態系気候変動応答は良く一致するのに対して、周北極域森林生態系(<67N)ではその一致度が有意に低下することが明らかとなった。本成果は、国際誌であるGlobal Change Biologyに投稿・受理され、現在印刷中である(Tei and Sugimoto, in press, Time lag and negative responses of forest greenness and tree growth to warming over circumboreal forests)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
衛星観測データ(NDVI3g)と樹木年輪の周北極域広域データセットの相互比較を通して、北極域生態系(>67N)では独立した両指標から求めた生態系気候変動応答は良く一致するのに対して、周北極域森林生態系(<67N)ではその一致度が有意に低下することを明らかにできた。また、北極域生態系における衛星観測データ(NDVI3g)と樹木年輪幅変動は当年夏の気象因子(気温と降水量)変動から良く説明されるが、周北極域森林生態系では前年夏、秋及び冬の気象因子も両指標変動に大きく寄与することを明らかにした。さらに、前の気温(夏、秋及び冬)は、周北極域森林生態系生産量に負の影響を与える傾向にあることも明らかにすることができた。本結果は、2つの独立した指標(衛星観測データと樹木年輪)から得られた調和的な結果であり、その信頼度は極めて高いと考えている。 本成果は、国際誌であるGlobal Change Biologyに投稿・受理され、現在印刷中である(Tei and Sugimoto, in press, Time lag and negative responses of forest greenness and tree growth to warming over circumboreal forests)。
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度に実施した樹木年輪と衛星観測データを用いた周北極域陸域生態系の気候変動応答解析の結果を現在の全球気候モデル(第5期結合モデル相互比較計画に参加した11個のモデル)がどの程度再現可能かを明らかにする。また、再現性の高いモデルと低いモデルの比較から、その高い再現性を担っている生態系炭素収支過程(光合成・呼吸・ 葉フェノロジー・光合成産物の分配・気孔抵抗を扱う素過程モデル群)の抽出を試みる。また、生態系炭素収支過程のみならず、モデル内の物理モジュール(水・ 熱・放射 の各収支、空気力学的要素などを扱う素過程モデル群から構成される)がモデル間の再現性の差異を生じさせている可能性もあるため、必要があればモデル間の物理モジュールの比較も行いたいと考えている。このような解析から周北極陸域生態系の炭素収支のより良い将来予測を行うための鍵となっている過程(観測データの再現性の低いモデルに対しては需要な改善点となる)が明らかになることが期待される。それは全球気候モデル将来予測の不確実性の減少を通して全球の気候変動予測に大きな影響を与えると考えられる。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成29年度に購入予定であった、解析用パソコンを購入しなかったことが、次年度使用額が生じた主要な要因である。その理由としては、平成29年度は名古屋大学宇宙地球科学研究所檜山研究室が所有するサーバー機を使用させて頂くことが出来たことが挙げられる。然しながら、そのサーバー機の運用は昨年度末で停止された。従って、今年度(平成30年度)、次年度使用額等を用いて、解析用パソコンを購入する予定である。
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