研究課題/領域番号 |
17K12811
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
平野 大輔 北海道大学, 低温科学研究所, 助教 (30790977)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 東南極 / 氷河ー海洋相互作用 / 白瀬氷河 / トッテン氷河 / 暖水流入 / 棚氷底面融解 |
研究実績の概要 |
(1)既存の越冬観測データに加え、第58次日本南極地域観測隊(JARE)において東南極のリュツォ・ホルム湾広域で取得した海洋観測データを解析し、湾内中央部の深い海底峡谷を中心として0℃を超える外洋起源の暖水(周極深層水)が分布することを明らかにした。また、この周極深層水が白瀬氷河の棚氷下へと流入し、それに伴う白瀬氷河の棚氷底面融解水のシグナルが湾内の表層から亜表層に分布することを明らかにした。この底面融解水のシグナルは特に白瀬氷河の近傍で顕著に見られ、周極深層水と棚氷底面融解水との理論的な混合直線で説明できることを示した。この研究成果を、関連する国際学会やシンポジウムにおいて発表した。
(2)白瀬氷河の棚氷底面融解に関連する循環像をより定量的に解明するため、上述の研究結果を元に、より最適な観測計画をデザインした。この観測計画に沿って、JARE第59次隊に参加してリュツォ・ホルム湾での海洋観測を実施し(2018年1-2月)、湾内の多地点における良好な水温・塩分・溶存酸素の鉛直プロファイルデータおよび海水サンプルを取得した。加えて、前次隊では取得できなかった流速データも取得した。また、通年観測システムである自動昇降式プロファイラー(POPS)とアイスレーダー(ApRES)を、それぞれ白瀬氷河末端近傍の海氷上と白瀬氷河棚氷上に設置することに成功した。これらの総合的な観測により、棚氷下への周極深層水の流入経路や、底面融解水の流出・波及範囲を推定することが可能となる。さらに、同じくJARE59次隊にて、東南極のトッテン氷河周辺海域における広域海洋観測を実現し(2018年3月)、トッテン氷河周辺海域における良好な水温・塩分・溶存酸素・流速の鉛直プロファイルデータおよび海水サンプルを取得した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
白瀬氷河が存在するリュツォ・ホルム湾の広域で取得した現場観測データの解析によって、既存の越冬観測データに基づいた仮説である「白瀬氷河の棚氷底面融解に関連する循環像」を立証する研究結果を得た。また、JARE59次隊に参加して現場観測を推進・実施し、この研究課題のさらなる進展に資する良好な現場観測データを取得した。しかし、当初計画していた海氷下懸垂式係留システムの設置については、2017年4月時点において予定海域の海氷状況が設置に適さない状況であったため、設置計画を取りやめた。 また、当初の計画にはなかったが、全球の海水準変動に大きな影響を及ぼしうる東南極・トッテン氷河の周辺海域にて広域海洋観測を実現し、トッテン氷河の棚氷底面融解プロセスの解明において貴重なデータ取得に成功した。以上を総合的に勘案し、概ね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
これまでに得られた白瀬氷河ー海洋相互作用に関する研究結果を、数値モデリング結果と比較・統合することで、白瀬氷河の棚氷底面融解と外洋起源の暖水流入との定量的な関連およびその季節変動を調べる。得られた研究成果を関連学会で発表するとともに、学術論文として国際誌に投稿する。 また、JARE59次隊にて取得した現場観測データの解析を進め、白瀬氷河棚氷下への暖水(周極深層水)の流入経路や底面融解水の流出経路・波及範囲を明らかにする。また、JARE59次隊でトッテン氷河周辺海域において取得した現場観測データを解析し、トッテン氷河の棚氷下への暖水流入および棚氷底面融解プロセスの解明を目指す。 さらに、今年度に予定されている南極観測航海に参加し、東南極・トッテン氷河近傍海域における現場観測を実施する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
リュツォ・ホルム湾の海氷上に設置予定であった海氷下懸垂式の係留システムの作成にあたり、このシステムを構成する高精度水温計および圧力計の購入費を計上していた。しかし、2017年4月時点において、設置予定海域であるリュツォ・ホルム湾の海氷状況が設置に適さない状況であったため、設置計画を取りやめた。 繰越し金については、今年度参加予定の南極観測航海にて使用する測器の購入に支出予定である。
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