研究課題/領域番号 |
17K12812
|
研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
大森 裕子 筑波大学, 生命環境系, 助教 (80613497)
|
研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
|
キーワード | 海洋 / 海洋大気間相互作用 / 揮発性有機化合物 / 微生物 / 光化学反応 |
研究実績の概要 |
アセトンなどの含酸素揮発性有機化合物(OVOC)は、対流圏オゾンやエアロゾル生成に寄与することで、地球温暖化に影響を及ぼしている。海洋は大気OVOCの収支に強く影響することが示唆されているが、海水中のOVOC濃度は海域や季節によって大きく変動するため、海洋がOVOCの放出源なのか吸収源なのか未だ把握できていない。本研究では、現場観測と培養実験を実施することで、海洋表層のOVOC濃度分布の季節変動とその支配要因を解明することを目的としている。 本年度は、海洋微生物によるOVOCの生成・分解過程を定量評価するため、高精度で多種OVOCを測定できるオンライン質量分析計(PTR-MS)を用いた「モニタリング培養システム」の構築を実施した。培養器中のOVOC濃度変化を精確に捉えるため、大気からのOVOCの汚染を防ぐ必要がある。そこで、培養器とPTR-MSまで密閉にし、培養器からバブリングガスによって抽出したOVOC濃度をPTR-MSで直接測定するシステムを確立した。次に、研究対象海域である太平洋亜熱帯域に面した静岡県下田市鍋田湾の表面海水を用いて、培養実験を実施した。OVOCの主要な成分であるアセトンについて、植物プランクトン・バクテリアによる生成速度とバクテリアによる分解速度、太陽光照射による生成速度をそれぞれ定量した。その結果、沿岸海水におけるアセトンの主要な生成プロセスは太陽光照射による光生成であり、分解は主にバクテリによる分解であることが示唆された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
PTR-MSを用いたモニタリング培養システムの構築は、年度内に概ね完了した。また、自然海水を用いた培養実験を実施し、アセトンの生成分解プロセスの定量評価が可能であることを実証できた。しかし、本年度に開始予定であった下田湾沖における観測と培養実験が実行できなかった。その理由として、研究代表者の妊娠と出産のため船舶による観測を中止せざるを得なかった。
|
今後の研究の推進方策 |
太平洋亜熱帯域に面した下田沖において、海洋表層におけるOVOC濃度の現場観測と培養実験を開始する。2018年秋から3ヶ月おきに1年間実施し、OVOC濃度の季節変動とその支配要因の解明を目指す。モニタリング培養システムを用いて、微生物活動と太陽光照射による生成分解速度を定量する。同時に、現場における植物プランクトンとバクテリアの生物量や種組成、水温や太陽光照射量といった環境パラメーターを測定し、海洋表層におけるOVOC濃度の季節変動を引き起こす要因を明らかにする。さらに、OVOC濃度の季節変動を再現する生物・環境パラメーターを用いたアルゴリズムの構築を目指す。
|
次年度使用額が生じた理由 |
研究代表者の妊娠と出産のため、本年度に開始予定であった下田湾沖における観測と培養実験を実施しなかった。2018年秋から観測および培養実験を開始するため、観測に掛かる費用および測定装置の運搬費を次年度に使用する。
|