研究実績の概要 |
最終年度となる今年度は、これまでに分析した黒ぼく土の対となる、灰色低地土の培養土壌を対象に、酵素活性試験、細菌および糸状菌の群集構造解析、Biologプレートを用いた微生物群集の機能的多様評価試験、微生物数測定など、黒ぼく土と同様の分析試験を実施した。また、昨年度から引き続き、各酵素活性に関わる機能性遺伝子を標的としたリアルタイム定量的PCR法の条件検討を行った。 灰色低地土における土壌酵素活性値と、微生物群集の種多様性との関係性を調査した結果、酵素活性の種類によって、微生物群集の種多様性との関係性に違いがあることを示唆する結果が得られた。具体的には、β-Dグルコシダーゼ活性は、10^1や10^4処理といった土壌微生物群集の種多様性が比較的高い試料において活性値も上昇する傾向があり、土壌かく乱に対する安定性と回復力も種多様性に比例する傾向が認められた。これに対して、ホスファターゼ活性やプロテアーゼ活性では、種多様性が低い土壌で酵素活性値が増加する等、土壌微生物群集の種多様性と酵素活性値が必ずしも相関しない場合があった。さらに、長期的な攪乱処理によって微生物群集の多様性が低下したにもかかわらず、対照区と比較して酵素活性値が増加する傾向が認められた。 先行研究において、ホスファターゼ活性やプロテアーゼ活性は、β-Dグルコシダーゼ活性と比較して、その生産能を有する微生物が少ない可能性が示唆されており (Nyyssonen et al., 2013)、β-Dグルコシダーゼ活性とホスファターゼ活性やプロテアーゼ活性では、酵素生産を有する個々の微生物の影響の大きさが異なる可能性が考えられる。これを明らかにするためには、リアルタイムPCR法を用いて各酵素生産に関わる微生物の種数と均衡度を評価する必要があるが、研究期間内に安定した実験結果を得ることができなかった。
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