研究課題
本研究は、南極ドームふじ氷床コアから17-26万年の大気組成を復元し、酸素と窒素の濃度比(δO2/N2)を用いて正確な年代決定を行うことで、日射量や気温、温室効果ガス、海水準変動などの正確な時間間関係を明らかにすることと、それらの検討から気候変動メカニズムの理解を進めることを目的としている。また、窒素とアルゴンの同位体比の気温の指標としての可能性を検証する。平成30年度は、前年度に確立した手法を適用し、17-26万年前の深度のドームふじ氷床コアの分析を進め、データの時間分解能を2000年から1200年に引き上げた。得られたδO2/N2は、ドームふじの夏至日射量と非常によく似た変動を示した。δO2/N2変動曲線とドームふじの夏至日射量曲線の極大値と極小値(タイポイント)が一致するように既存の年代スケールを伸縮させて新しい年代軸を計算した。さらに、氷と気体の年代を同時に計算するために、氷床流動モデルを用いた年代計算を専門とするフランスの研究者と共同研究を開始した。また、約14万年前のメタン濃度と酸素の同位体比に、北半球の氷山流出イベントを示唆する特徴的な変化を見出した。これをより詳細に調べるために、該当深度域を約50年間隔で分析した結果、約800年の間にメタン濃度が70ppb上昇し酸素同位体比が0.1‰上昇したことが分かった。この急激な変化は氷期の最寒期に起こった北半球の氷山流出イベントかつ2つ前の退氷期の開始時期を示す可能性があり、退氷開始時期をこれまでよりも正確に制約できる可能性を見出した。
3: やや遅れている
前年度に確立した高精度分析手法を用いて分析を進め、δ15N、δ18O、δO2/N2、δ40Ar、δAr/N2、CH4濃度のデータ数を前年度の1.5倍に増やしたものの、分析に使用している装置に予期せぬ故障(質量分析計のイオン源の異常)が多発し、その対応に時間を要した結果、計画通りに試料の分析を行えなかった。一方で、約14万年前のメタンと大気中の酸素同位体比を、当初計画になかった超高分解能(50年間隔)で分析することで、2つ前の退氷期の年代を制約できる可能性を示すなど、重要な科学的知見を得た。また、海外の研究者との共同研究により先端的な年代計算手法を適用することも、当初計画を超えた進展である。
ドームふじ氷床コアの分析を進め、高精度年代決定に必要なO2/N2をはじめとする気体組成のデータを取得する。O2/N2データを現地の夏至日射量変動と対比させることで得られるタイポイントや、δ15Nから推定するフィルンの厚さを年代計算モデルに入力し、氷年代と気体年代、年代誤差の計算をする。こうして新たに得られる年代を適用した南極の気温やCH4濃度を、放射性同位体(ウラン-トリウム法)により絶対年代が推定されている北半球の石筍のδ18Oと比較することで、双方の年代決定の整合性・妥当性を検証する。高精度の年代軸をもとに、南極の気温と温室効果ガス、北半球の気候、南大洋の表面海水温などの変動のタイミングを明らかにする。
平成30年度は、分析に使用している質量分析計のイオン源の異常が多発し、その対応に時間を要したため、17-26万年前のドームふじ氷床コアのδ15N、δ18O、δO2/N2、δ40Ar、δAr/N2、CH4、N2O、CO2濃度の測定が計画通りに終わらなかった。そのため、データを取得するのに必要な、液体窒素や混合ガス、バルブ、継手類といった消耗品の購入のほか、成果発表のための旅費として使用する。
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