研究課題
本研究課題では、近年、雪氷質量損失が急激に進行しているグリーンランド氷床の質量変化を精度良く推定出来る極域気候モデルの開発を最大の目標に掲げている。初年度は、当初計画通り、水平解像度5km・時間解像度1時間の高解像度グリーンランド向け極域気候モデルNHM-SMAPの開発に注力し、ヴァージョン1を提示することに奏功した。更に、2011-2014年に取得された現地観測データと衛星データを用いて多角的なモデル精度評価を行った。結果、NHM-SMAPは、グリーンランド氷床の気候変化のみならず日々の日変化まで精度良く再現できることが示された。2012年の記録的な表面融解イベントを高精度で再現することに成功したことは特筆に値する。本モデルにとって特に重要な計算要素である雪氷表面質量収支(Surface Mass Balance; SMB)については、平均誤差、二乗平均平方根誤差、及び決定係数はそれぞれ0.75 m w.e.、1.07 m w.e.、及び0.86と、この種のモデルとしては良好であった。NHM-SMAPの標準設定では、雪氷内部水分移動を精緻かつ現実的なRichards式で計算しているのに対し、多くの既存の領域気候モデルは非常に簡易的な所謂バケツスキームを採用している。バケツスキームを採用した上でirreducible water contentを2 % 及び 6 %とする感度実験を行ったところ、SMBの推定精度はRichards式を用いた場合に最も良くなることが示され、NHM-SMAPの優位性が実証された。各感度実験間の年積算SMB推定差は200 Gt/yearに達した。このことは、雪氷内部水分移動計算手法の選択がグリーンランド氷床のSMB推定に大きな影響を与えることを示す重要な結果である。以上の結果を欧州地球科学連合の専門誌The Cryosphereにて発表した。
2: おおむね順調に進展している
申請書記載の平成29年度研究実施計画、及びその進捗状況は以下の通り:1.極域気候モデルNHM-SMAP の開発、2009 年以降の長期計算、及びモデル感度実験の実施→計画通りのスペックを有する極域気候モデルNHM-SMAPの開発に成功、現在気候下の長期計算を実施、また、特に雪氷内部水分移動に関するモデル感度実験を実施した。2.NHM-SMAP の定式化・計算設定の説明と初期評価結果に関する論文執筆→上記1の内容を記した論文を執筆し、EGUの専門誌The Cryosphereにて出版した。3.モデル精度検証の深化に特化したGrIS (グリーンランド氷床)機動観測の実施(のための準備)→観測準備を予定通り実施した。なお、本報告執筆時点(4/28)で、観測はグリーンランド氷床北西部において予定通り実施された(観測実施期間:4/6~4/18)。
本報告執筆時点(4/28)で、研究実施計画3「モデル精度検証の深化に特化したGrIS (グリーンランド氷床)機動観測」の実施に成功した。平成30年度は、そこで取得した観測結果とモデル計算結果の比較を行い(研究実施計画4「GrIS 機動観測結果とNHM-SMAP 計算結果の比較に関する論文執筆」)、その結果を論文等にまとめて報告する。
複数の観測用消耗品が当初見込みよりも若干安く購入出来たため、そこで生じた残額を次年度に回すこととした。その分は雪氷観測用消耗品購入費用の一部に充てて有効活用する。
すべて 2018 2017
すべて 雑誌論文 (8件) (うち国際共著 2件、 査読あり 6件、 オープンアクセス 5件) 学会発表 (10件) (うち国際学会 3件、 招待講演 2件)
The Cryosphere
巻: 12 ページ: 635~655
10.5194/tc-12-635-2018
エアロゾル研究
巻: 33 ページ: 5~11
10.11203/jar.33.5
雪氷
巻: 80 ページ: 159~174
巻: 80 ページ: 46~48
Annals of Glaciology
巻: 58 ページ: 181~192
10.1017/aog.2017.7
SOLA
巻: 13 ページ: 96~101
10.2151/sola.2017-018
巻: 79 ページ: 525~538
天気
巻: 64 ページ: 257