本研究の目的は,主に大気中のサブミクロン粒子のみの化学計測に用いられてきたエアロゾル質量分析法を応用し,従来法では困難であった粒径範囲の広げた化学組成解析を可能とする,「ガス選択型エアロゾル質量分析法」を確立し,環境動態解析ための環境計測法を新たに展開しようとするものである. (1)ガス選択型エアロゾル質量分析計の開発(パージガスの低消費化) ガス交換膜の孔径とパージガスの滞留時間の見直しを行い,パージガスの低流量化を図った.ガス交換能力は,カウンターフローデニュダの出口側にカルバニル電池式低酸素濃度センサーと体積流量制御が可能なポンプを設置し,空気中の酸素が除去されることを確認した.粒子の透過効率は,粒径の分かっている標準粒子(PSL粒子,粒径0.02~10um)を高効率ネブライザーと迅速サンプル導入システム(本研究備品として申請)で試料導入量の最適化を行いながら発生し,カウンターフローデニュダの入口と出口の個数濃度をSMPSで交互に測定し,ナノ粒子の透過率(損失)を評価した.この評価により,ナノ粒子の透過性を確保し,パージガス流量が最も少ないカウンターフローデニューダを選択し,エアロゾル質量分析計へ装着し,ガス選択型AMSとした. (2)ガス選択と空力学レンズの粒子透過特性の評価 (1)で開発したシステムと評価実験を利用して,大気の実態に近い成分でも性能を評価するため,大気粒子の水抽出成分に対しても測定する.カウンターフローデニュダに用いるガスは,He,N2,O2,空気,Arといったガス拡散係数の異なるものを用いた.これにより,ガス種(ガス拡散係数や平均自由工程)と空力学レンズにおける粒子透過特性に関する新たな学術的な知見を得た. 以上により,ガス選択型AMSを開発し,ガス種の切替えにより,測定できる粒径の範囲を切替え可能なシステムとした.
|