年度前半では全球窒素循環過程に注目したシミュレーション実験を実施した。当初予定していた数値実験の多くが第6期結合気候モデル比較プロジェクト(CMIP6)においてもデザインされており、このCMIP6実験のうち特に窒素循環に関する実験の実施および解析を、研究協力者とともに行った。特に、(1)産業革命以前の状態を再現する実験、(2)産業革命以前から現在に至るまでの過去再現実験、(3)過去再現実験のうち窒素負荷に関わる土地利用変化を産業革命以前の状態に固定した実験、(4)窒素に関する感度を実施し、これらの結果を解析した(これらの実験の一部は前年度においてテスト実験として実施済みであったが、本年度では最終パラメータ調整等を済ませた上で正式なプロダクト実験を実施し、その結果の一部を論文として発表した)。土地利用変化を停止した実験では、陸域への窒素インプット(施肥、農作物による窒素固定)が産業革命以前の状態に保たれる結果、陸域生態系における全球窒素動態のうち、(農作物による)全球窒素固定がほぼ一定となり、その結果、生態系への窒素インプットの増加は主に陸域への窒素沈着に依存していた。生態系への窒素取り込み量や脱窒・アンモニア揮発によるガス放出、河川への流出も大きく抑えられ、河川窒素流出を介した海洋への影響も減じられることが明らかになった。また、このような土地利用固定実験における陸域生物生産力を調べた結果、本シミュレーション用いた地球システムモデル内では、農地における窒素固定がその生物生産に影響してるかもしれないという示唆が得られた。
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