研究課題/領域番号 |
17K12821
|
研究機関 | 長崎大学 |
研究代表者 |
磯野 真由 長崎大学, 原爆後障害医療研究所, 特任研究員 (90713511)
|
研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
|
キーワード | DNA二本鎖切断 / DSB修復経路 / 53BP1 repositioning / ATR活性 |
研究実績の概要 |
放射線照射によって生じるDNA二本鎖切断(DNA double strand break: DSB)は細胞の生死を決める重篤なDNA損傷である。53BP1はDSB部位に集積し、NHEJを促進しHRを抑制することが知られているが、どのようにNHEJやHRの経路選択性に影響を及ぼすかについてはその詳細な制御機構は未だ明らかになっていない。本研究ではHRの進行に必要なステップである53BP1 fociの再配置(53BP1 repositioning)の分子機構を明らかにすることで、DSB修復経路選択における53BP1の役割を明らかにする。 平成30年度は、ATR阻害剤添加に対するG2期における53BP1 repositioningの消失について、詳細な検討を行った。免疫蛍光染色による検討を行い、放射線照射後30分で阻害剤を30分添加した際は未添加と変わらず53BP1 fociの形成が見られ、形成数にも違いが見られなかった。しかしながら、照射後4時間で阻害剤を30分添加した際は、未添加に比べて53BP1 fociの形成数が減少していた。さらに、上記の条件で阻害剤添加30分後に培地による洗いで阻害剤を除去し、引き続き30分培養した後の53BP1 fociの数は未添加とほぼ同じ数に回復していた。同様の条件で53BP1より上流で働くγH2AX fociの形成についても検討を行った。53BP1 fociとは異なり、照射後4時間でのATR阻害剤添加によるfoci形成数の減少は見られなかった。さらに、ATM阻害剤についても上記の条件で53BP1および γH2AX fociの形成について検討を行ったが、阻害剤の添加による両タンパクのfoci形成数の明らかな違いは見られなかった。G2期におけるHRが進行中のDSBで見られる53BP1 fociの形成維持にはATR活性が関与していると考えられる。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
年度始めに所属先の変更が生じ、実験のセットアップに時間がかかった。また、年度末に再度所属先の変更が生じたために当初予定していた実験を十分に遂行することができなかった。
|
今後の研究の推進方策 |
53BP1 repositioningの制御に寄与するBRCA1やPP4C、CtIP、クロマチンの構造変換に機能するSMARCAD1やTIP60、CSBそれぞれをノックダウンした細胞を用いて、53BP1とその上流であるγH2AXがDSB部位に集積する際に認識するヒストン修飾(メチル化およびユビキチン化)に着目し、照射後4時間におけるATR阻害剤添加した場合の上記タンパクの集積または修飾への影響はあるのか、免疫蛍光染色を行い検討する。 53BP1 repositioningとDSB-end resection(以後、resection)の関係性についての実験を実施する予定である。照射後4時間でのATR阻害剤添加に伴う53BP1 fociの消失によってresectionのマーカーであるRPA fociは過度のresectionにより大きくなるのか、それとも影響がないのか、または消失するのか、免疫蛍光染色を行い検討する。 これらの実験から、53BP1 repositioning、すなわちDSB修復シグナルの基盤がHR修復時ではATR活性に依存しているか、またクロマチンの構造に依存しているのかどうか明らかとなる また、ATR阻害剤による53BP1 repositioningの消失について、リン酸化修飾だけでなくユビキチン化は関与しているか確認するため、照射後4時間の時点でK48、FK2などによる集積が53BP1 repositioningと共局在するのか免疫蛍光染色等で調べる。ATR阻害剤とプロテアソーム阻害剤の組み合わせによる53BP1 fociのDSBへの集積を確認する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
年度始めに所属先の変更が生じ、実験のセットアップに時間がかかった。また、年度末に再度所属先の変更が生じたために当初予定していた実験を十分に遂行することができなかった。昨年度未使用額については、siRNAや抗体等に充てたい。
|