昨年度の解析結果から、正確性が低いDNAポリメラーゼζ (REV3 L2618M) を発現するミスマッチ修復欠損細胞においてグアニンのベンツピレン付加体 (BPDE-dG) がリーディング鎖の鋳型にある場合に比較してラギング鎖の鋳型にある場合の方が、変異体頻度が高くなることを明らかにしたが、変異スペクトルの解析は十分ではなかった。さらなる変異スペクトル解析の結果、損傷部位においてはBPDE-dGがラギング鎖の鋳型鎖にある場合ではG:C → T:A変異の割合が高く、リーディング鎖の鋳型鎖にある場合では、G:C → T:A変異とG:C → C:G変異が同程度の割合で見られた。また、損傷部位以外での変異ではREV3 L2618M細胞では野生型細胞に比べて1-3塩基の挿入変異の割合が多く、特に連続した塩基配列でのフレームシフト変異が多く見られた。また、BPDE-dGがラギング鎖の鋳型鎖にある場合において、損傷部位付近に2-3塩基並んだ変異がREV3 L2618M細胞で多く見られた。さらに、BPDE-dGがラギング鎖の鋳型鎖にある場合では、損傷導入部位近傍の上流に変異が多く見られたのに対し、リーディング鎖の鋳型鎖にある場合では上流と下流の両方で変異が見られ、また、損傷導入部位から離れた位置にも変異が見られた。 昨年度に続き薬剤耐性遺伝子を有するドナープラスミドを用いて、標的遺伝子の転写鎖にニックを導入する方法によりノックイン細胞の作製を試みたが目的の変異を導入できた細胞は得られなかった。そこで、ターゲティングベクターの5’と3’ homology armに相当するゲノム配列の中央近傍をそれぞれCRISPR/Cas9で切断する方法によりノックイン細胞の作製を試みたところ効率的に目的の変異が導入できた細胞を作製することができた。
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