研究課題/領域番号 |
17K12826
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研究機関 | 国立研究開発法人国立環境研究所 |
研究代表者 |
木村 栄輝 国立研究開発法人国立環境研究所, 環境リスク・健康研究センター, JSPS特別研究員 (90710054)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | イメージング解析 / アリール炭化水素受容体 / 脳 / マウス / 蛍光免疫染色法 |
研究実績の概要 |
本研究では、ダイオキシンの受容体であるアリール炭化水素受容体(AhR)がリガンドと結合することで細胞質から核内へと移行する性質に着目し、AhR核移行が細胞の分化・成熟に与える影響ならびにAhRの細胞内分布を定量的に評価するイメージング解析法の確立を目指して研究を行った。 まず、AhR核移行が細胞に与える影響を調べるため神経細胞をモデルに用いて実験を行った。リガンド非存在下でも核移行できる恒常活性型AhR(CA-AhR)と蛍光タンパク質の遺伝子をマウス脳の神経細胞にトランスフェクションし、脳組織切片を作製して顕微鏡下で遺伝子導入細胞の形態解析を行った。その結果、CA-AhR発現により神経突起の長さや分岐数の低下が起こり、恒常的なAhR核移行が細胞の分化・成熟を阻害することが分かった。 次に、AhR細胞内分布のイメージング解析法の検討を行った。マウス脳の組織切片を用いてAhRを標的とした蛍光免疫染色法の条件検討を重ね、AhRを安定的に染色できるプロトコルを確立し、発達期および成熟期の脳において神経細胞にAhRが発現していることを見出した。共焦点顕微鏡を用いて染色処理した組織切片の画像を取得し、ソフトウェアによるAhR細胞内分布を定量的に解析する方法を確立した。現在、発達期マウスの神経細胞、ならびにダイオキシン曝露マウスの神経細胞におけるのAhR核移行量の変化についてデータの取得を行っている。 本研究結果は、AhR核移行によって生じる毒性メカニズムの解明や中枢神経系におけるAhRの機能、そしてAhR細胞内分布を指標とした毒性評価試験法の開発に資する知見になると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成29年度では恒常的なAhR核移行が神経細胞の分化・成熟に与える影響に関する研究成果を論文として発表することができた。さらに、マウス脳の神経細胞におけるAhR発現をイメージング解析により捉えることに成功し、現在は投稿論文に向けたデータ取得に着手している。よって、当初の計画以上のペースで研究内容を学術論文として発表する態勢にあると言える。その一方で、AhRの蛍光免疫染色法の条件検討や画像解析法の確立に多くの時間を割く必要が生じたため、当初予定していた3次元蛍光イメージング解析やAhR複合体の構成タンパク質群の探索等、一部の実験に遅れが生じている。よって、研究全体としては「おおむね順調に進展している」と評価した。
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今後の研究の推進方策 |
神経細胞におけるAhRの発現や核移行に関するデータ取得と解析を進める。これと並行して、ダイオキシン以外のAhRリガンドの投与によるAhR核移行の定量解析を行い、リガンドの種類によるAhR細胞内分布の違いを検討する予定である。加えて、3次元蛍光イメージング解析等の遅れが生じている実験にも着手する。すでにAhRの蛍光免疫染色法や画像解析法を確立しているため、リガンド投与動物の組織採取が済み次第、速やかに実験データの取得と解析が可能であり、円滑に研究を推進できる。また、遺伝子・タンパク質の発現解析にも取り組む予定であり、イメージング解析を起点として分子レベルの変化に迫ることで、毒性評価におけるイメージング解析の有用性を裏付けるエビデンスを蓄積していく。
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次年度使用額が生じた理由 |
蛍光免疫染色法の条件検討や共焦点顕微鏡を用いて取得した画像の解析法の検討、そして論文作成に多くの時間を割くこととなったため、当初平成29年度に実施予定だった実験の一部に遅れが生じ、それらの実験に用いる消耗品等の購入に使用予定だった研究費が次年度使用額となった。 平成30年度は早急に遅れている実験に着手する予定なので、時期こそずれ込むものの当初の実験計画に沿って次年度使用額を使用していく。なお、蛍光免疫染色法や画像解析法はすでに確立しているため、動物組織等の実験試料が作製でき次第、逐次データ取得が可能な態勢にあるので、当初の予定通り研究を推進できると考えている。
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