研究課題/領域番号 |
17K12827
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研究機関 | 富山大学 |
研究代表者 |
太田 民久 富山大学, 大学院理工学研究部(理学), 特命助教 (60747591)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 大気降下物 / 生物指標 / コケ植物 |
研究実績の概要 |
本年度採択者が実施した研究は以下のとおりである。 ①大気降下物量が異なると考えられる5つのサイトに、コケマットおよび大気湿性沈着物のサンプラーを設置し、定期的にサンプルの回収を行った。そして、その大気湿性沈着物およびコケサンプルのストロンチウムおよび鉛安定同位体比を測定し、両者がどの程度相関するかを検討した。その結果、大気降下物との安定同位体比は若干の相関関係を示したが、コケには高濃度のストロンチウムおよび鉛のような重金属が元々蓄積されており、その影響で同位体の変化率は非常に小さかった。つまり、コケ中に含まれる重金属はより長期間の間に降下した物質が蓄積していることが分かった。 ②森林地域に生育するコケ植物は、大気降下物以外にも、樹幹流由来の物質も吸収する。その結果、樹木が高密度で生育し、樹冠が閉じたような場所においてコケは、植物(樹幹流)由来の物質を取り込んでる可能性がある。つまり、コケ植物を用いて正しく大気降下物の起源を推定するためには、林冠の開空度を意識しつつ、採集しないといけない。そこで我々は、金沢大学・環日本海域共同研究センターの能登スーパーサイト付近の森林において、林冠が開けたサイトと閉じたサイトを選定し、それぞれからコケ植物と樹木の葉を採集した。その結果、林冠がより閉じた場所では、コケは樹木由来の物質を多く取り込んでおり、その安定同位体比は大気降下物の値を反映していないことがわかった。 ③コケ植物の安定同位体比をより広域スケールで比較するために、昨年度コケおよび樹木葉を10府県において106箇所採集した。そして、安定同位体比および元素濃度を測定した。まだ測定途中ではあるが、高標高域で採集したサンプルは、中国の黄沙の安定同位体比に近い値を示した。つまり、気流の安定している高標高域では、大陸由来の物質が多く降下している可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
予定していた、コケ植物と大気降下物の安定同位体比比較実験は終了し、多くの改善点が見つかった。 林冠の開空度が異なる場所で採集したコケの安定同位体比の比較実験は、既にストロンチウムおよび鉛の安定同位体分析を終えた。 また、コケ植物の安定同位体比の広域スケールでの比較に関しては、野外調査は予定通り全て完了することができた。サンプルの安定同位体分析はすでに開始しており、40%程度のサンプルは既に分析を終えることができた。
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今後の研究の推進方策 |
コケマットと大気降下物との比較実験は、1年間の設置実験では評価可能な結果が出なかったため、より長期間にわたる設置実験を考えている。また、今後重金属フリーなコケ植物を実験室において作成し、野外実験に用いるなどの対策を考えている。 林冠の開空度が異なる場所で採集したコケの安定同位体比の比較実験は、今後データ解析を進め、論文化する予定である。 昨年度、広域スケールで採集したコケ植物の安定同位体分析の進捗率がまだ40%程度であるため、引き続き実施する。本分析は2018年度8月頃までに全てを完了させ、データ解析を行う。その後、論文執筆を開始し、12月頃までに論文にまとめ、国際的な環境科学雑誌に投稿する。 さらに、コケ植物と同じく大気降下物を表皮組織から吸収し、大気降下物の指標となる地衣類に関しても同時に研究を進めて行く予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
昨年度3月末に出張先で利用したレンタカーの料金が予定していた額よりも安くなってしまったため。本余剰金(4644円)は翌年度に繰り越し、物品費に充てる。
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