微小粒子状物質(PM2.5)は人体への健康影響が懸念されており,これまで様々な環境対策が進められてきた.PM2.5の約3割は炭素成分が占めており,中でも有機炭素は発生源から直接排出される一次粒子と揮発性有機化合物等が大気中で反応してできる二次粒子の両方を含んでおり,数百から数千種類の成分が存在する.そのため,発生源が非常に複雑であり,未だ実態が解明されていないのが現状である.そこで本研究では,有機炭素の中で主たる成分である水溶性有機炭素に着目し,それら成分の定性・定量分析を行い,近年開発された安定同位体比質量分析法を利用して発生源の解明を目的とする. 平成30年度は,前年度に液体クロマトグラフ/安定同位体比質量分析計を用いて構築した水溶性有機炭素の安定同位体比分析手法について論文にまとめた.従来の方法よりも試料の前処理工程や時間が大幅に短縮され,かつ低濃度までの分析法を構築することができた.Rapid Communications in Mass Spectrometry誌に投稿し受理され,2018年10月の表紙イメージとして選ばれた.また,前年度から継続して茨城県つくば市と秋田県由利本荘市の2地点でハイボリュームエアーサンプラーを用いてPM2.5の大気観測を実施した.捕集した大気試料は,構築した分析法を用いて水溶性有機炭素の炭素安定同位体比を測定した.各地点とも約1年間の長期観測結果が得られ,今後発生源の推定や解析を進めていきたいと考えている.
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