研究課題/領域番号 |
17K12830
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研究機関 | 国立研究開発法人海洋研究開発機構 |
研究代表者 |
小野 純 国立研究開発法人海洋研究開発機構, 北極環境変動総合研究センター, 特任研究員 (20451411)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 北極海 / 海氷 / 気候モデル / 初期値化 / 予測可能性 |
研究実績の概要 |
本研究課題では、全球の大気海洋結合過程を表現できる気候モデル(MIROC)とこれまで有効活用されていない極域の観測データを融合し、既存の初期値化システムを改良する。また、気候変動の鍵を握る北極環境の予測可能性に寄与する物理過程を解明することで、北極域から中緯度域の季節から経年スケールの気候変動予測に役立つ情報を提供する。 二年目は、初年度に引き続いて海氷厚の観測データを収集・整備しながら、現実的な設定で海氷厚を気候モデルに同化するスキームの開発に着手した。これに加えて、理想的な状況を仮定し、春(4月)の海氷厚が北極環境変動の予測可能性に与える影響を調べた。その結果、春に正しい海氷厚を与えると海氷面積は10月まで予測可能であるが、海氷厚が正しくなければ6月までしか予測できないことが示唆された。 また、北極環境の予測可能性に関する国際プロジェクトの一環として、気候モデルを用いて、内部変動に伴う海氷大激減のメカニズムと予測可能性についても調べた。その結果、一定の放射強制の下でも、北極海の海氷面積は急激に減少し、2007年や2012年に観測された減少量に匹敵することがわかった。この原因の一つは北極海上に形成される海面気圧偏差のダイポール構造に伴う風であるが、より重要なのは海氷を沖向きに動かすのに好都合な風系が形成されていることである。これに加えて、春の海氷厚と大西洋・太平洋からの熱輸送に起因する北極海内部の状態が海氷大激減のプレコンディショニングとして作用していることも示唆された。このような9月の海氷大激減イベントは7月から予測可能であるが、4月からは海面気圧と氷縁に沿う海氷厚の誤差が大きいために予測できないことが示された。 以上の研究成果は、国内外での学会・研究集会で発表(口頭2回、ポスター1回)し、査読付き論文としてJournal of Climateに掲載済みである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
二年目は主に、(1)理想的な設定で海氷厚を初期値化する実験と(2)現実的な設定で海氷厚を初期値化する実験、の二つの研究に取り組んだ。 実験1に関しては、当初の予定通り全ての実験を実施することができた。その結果を用いて、本研究課題で着目している海氷厚の初期値が海氷面積を含む北極環境変動の潜在的予測可能性にどの程度の影響があるかを調べた。その結果、春に正しい海氷厚を与えると海氷面積は10月まで予測可能であるが、海氷厚が正しくなければ6月までしか予測できないことが示唆された。この研究成果は、海氷厚の観測データで既存の初期値化システムを改良するために重要な知見であり、現在論文化に向けて詳細を詰めているところである。 実験2に関しては、初年度に引き続き、観測データを整備し、気候モデルに海氷密接度を同化する既存のスキームの改良しながら、海氷厚を同化するスキームの開発に着手した。当初の予定よりやや遅れ気味であるが、衛星観測ベースの海氷厚データが存在する期間を対象として、検証実験を行う準備は整いつつある。 以上のことから、本研究はおおむね順調に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度は、以下に述べる3つ課題に取り組む予定である。 1.開発中の海氷厚の同化スキームを気候モデルに実装し、海氷厚データが存在する期間を対象とした予備調査を実施した上で、海氷厚の同化あり・なしの結果を比較・検証する。また、改良を重ねながら必要に応じて追加実験を行う。 2.理想化実験の結果を論文化し、実験設定を応用して積雪深のインパクトについても調査する。 3.極端な海氷減少のメカニズムの一つと考えられている海面気圧偏差のダイポール構造形成に関わる物理プロセスを調べ、海氷を含めた北極環境変動の予測精度向上につながる知見を創出する。 上記の研究計画を遂行するにあたり、国内外での研究集会・学会での発表を通じて議論を深め、最終年度の研究を進めていきたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
大型計算機の使用料について、海洋研究開発機構内のプロジェクトに参加したことで支出がなくなったため、次年度に大容量ストレージを補填するために使用する。
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