本研究課題では、全球の大気海洋結合過程を表現できる気候モデルと観測データを融合した初期値化システムを用いて、気候変動の鍵を握る北極環境の予測可能性とその予測を可能にする物理過程を解明することにより、北極域の季節から経年スケールの気候変動予測に貢献し得る知見を創出する。研究期間全体を通じて、3つの研究成果が得られた。 1.季節から経年スケール海氷変動の予測可能性を調べた結果、冬季の海氷面積は約1年前から予測が可能であり、その鍵は北大西洋からバレンツ海に流入する海洋熱量偏差であることが明らかになった。また、夏季の海氷面積は数ヶ月前から予測が可能であり、その鍵は太平洋側北極海の海氷の熱的持続性にあることが明らかとなった。 2.内部変動に伴う海氷大激減のメカニズムと予測可能性について調べた結果、一定の放射強制の下でも、北極海の海氷面積は急激に減少し、2007年や2012年に観測された減少量に匹敵することがわかった。この原因の一つは北極海上に形成される海面気圧偏差のダイポール構造に伴う風であるが、より重要なのは海氷を沖向きに動かすのに好都合な風系が形成されていることである。 3.海氷厚を初期値化する理想化実験を行い、海氷厚偏差の持続性によって夏の海氷面積は2年先まで予測可能であること、春の海氷厚に誤差があると夏の海氷面積を予測できないこと、太平洋側北極海の春の海氷厚初期値化が夏の海氷予測の精度に重要であること、を示した。 上記の研究成果は、国際・国内学会および国際誌(査読付き)において発表済みである。 最終年度は、海氷の新しい初期値化手法につながる知見を得る目的で、二種類の数値実験を実施した。初期解析から、風応力で海氷運動を制約した場合、従来の初期値化手法と比べてより現実的な海氷変動が再現されることがわかった。今後は詳細な解析を行い、2021年度内に研究成果を論文にまとめて投稿する。
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