研究課題/領域番号 |
17K12832
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研究機関 | 茨城大学 |
研究代表者 |
野口 愛 茨城大学, 農学部, 産学官連携研究員 (30724207)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 好酸性微細藻類 / 模擬廃糖蜜蒸留廃水 / 廃水処理 |
研究実績の概要 |
本年度は廃糖蜜蒸留廃水中で増殖可能な微細藻類の獲得を目的とし,主に環境試料から微細藻類のスクリーニングを行った.本年度採取した45試料および過去に採取済みであった47試料に対し,修正MBM培地 (pH 6.0) と一部M-Allen培地 (pH 2.5) を使用して培養を試みた.その結果,25試料においてM-Allen培地中での微細藻類の増殖が目視にて確認でき,環境試料から有望と思われる好酸性の微細藻類の獲得に成功した. また,既に分離培養されている微細藻類株を用い,模擬廃水を用いた培養試験も行った.ここでは,増殖が早いとされるChlorellaに近縁のChlorella vulgaris(NIES-2170),Chlorella emersonii(NIES-2151),Parachlorella kessleri(NIES-2159)の3株を用いた.模擬廃水はミャンマーの廃糖蜜蒸留廃水の組成を参考に調製した.調製した模擬廃水のpHを3-8に調整し,各藻類株を10 mLスケールにて培養した.C. vulgarisが3株の中で最も増殖が高く,中性付近の条件で増殖が最も高かった.C. emersoniiはいずれのpHにおいても他の2株より増殖が低かった.P. kessleriはpH4-5の条件で増殖が可能であり,中性条件よりも短時間で増殖した.C. vulgarisではpH 7,P. kessleriではpH 4の条件において,300 mLにスケールアップして模擬廃水中での培養を行った.無希釈の廃水中でも藻類の増殖が見られたが,TOC, COD, TNの除去には効果的ではなかった.模擬廃水を5倍希釈した条件でも同様の結果となったが,模擬廃水を10倍希釈するとTOC, CODの除去が可能となり,P. kessleriの方が除去率が高い傾向となった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
事業期間初年度に研究代表者の所属機関の変更が生じ,予算や物品の移管に伴い準備期間を当初より長く確保する必要が生じた.また,当初計画に組み込まれていた実験設備等が使用できなくなり,研究の進捗に遅れが生じた. しかしながら環境試料からの好酸性微細藻類を25試料も獲得できており,H30年度以降の新たな藻類株の獲得は必須ではなくなった.得られた微細藻類の同定は,ピペット洗浄法などで藻類の単離を行った後に18S rRNA遺伝子の塩基配列に基づいて行う.また,既存の分離株ではあるが,模擬廃糖蜜蒸留廃水での培養試験を実施でき,今後分離される藻類株に対する実験方法の主要な部分が確立できた. 当初の計画からやや遅れているが,全体として大きな影響はないものである.
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今後の研究の推進方策 |
H29年度に環境試料から藻類を獲得したので,十分なバイオマス量を確保した後に順次酸耐性,有機物・アンモニア耐性,メラノイジン耐性等の特性を評価する.評価法の条件検討などは引き続き既存の分離株を用いて行う.加えて,各培地で培養した際に発現している遺伝子を網羅的に解析し,微細藻類の活性に関する遺伝子のうち発現量が大きく変動しているものを抽出する.まずはMBM培地等基本的な藻類培養培地に,各成分を蒸留廃水と同濃度添加した培地を用いて培養を行う.それぞれの成分と藻類の活性の関係が得られたら,複数成分を混合したもの,そして模擬廃水を用いた培養を行う. 実際の廃糖蜜蒸留廃水においては,廃水中の成分の他,微細藻類に影響を与える因子として廃水中に共存する微生物群が挙げられる.調査対象地より実廃水が入手できた段階で,中に含まれる微生物叢解析を行う.特に,基質競合関係にある菌や存在割合の多い菌種に着目した解析を行い,微細藻類の活性との比較を行う.その中で,微細藻類の増殖に影響をもたらしている微生物を抽出する.
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次年度使用額が生じた理由 |
事業期間初年度に研究代表者の所属機関の変更が生じ,予算や物品の移管に伴う準備期間が当初の予定よりも長くなった.また,当初計画に組み込まれていた実験設備等が使用できなくなり,研究の進捗に遅れが生じたことが大きな要因となった. 実施内容としては環境試料からの目的の微細藻類の分離が主となったため,当初予定していたよりも物品や試薬の購入が少額となった.また,遺伝子解析を行う分の予算を使用しなかった.しかしながら,好酸性藻類試料を25試料も獲得できており,次年度以降の実験を随時進めていくことが可能である.また,微細藻類が当初の予定より多く獲得できたことから,その遺伝子解析費用にも使用する予定である.
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