研究課題/領域番号 |
17K12836
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
丸林 弘典 東北大学, 多元物質科学研究所, 講師 (00723280)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | ポリ(α-ヒドロキシ酸) / 高分子量体 / 立体規則性 / 側鎖 / 結晶性 / 結晶構造 / 融点 / 分子間相互作用 |
研究実績の概要 |
結晶性の立体規則性ポリ(α-ヒドロキシ酸) (PAHA)の中で、側鎖にそれぞれイソプロピル基、sec-ブチル基を有するP(L-iPr)、P(L-s-Bu)の高分子量体に着目し、2年目(H30年度)はその構造解析を中心に行った。 高分子量P(L-iPr)の β晶については、初年度に前倒しした構造解析を継続した。初年度にコンホメーションが決定された分子鎖を、単位格子に様々な様式で充填し、それぞれのモデルの妥当性をX線回折とエネルギーの両観点から評価した。比較的良好な構造モデルが得られたが、まだ最終的な構造決定には至っていない。 さらに、α晶の配向試料の作製に成功し、そのX線回折像を解析した結果、α晶ではβ晶に比べてらせん構造が乱れていることが示唆された。α晶はβ晶よりも融点が100 ℃以上低いため、その原因がこの乱れた構造にあると推察される。この結果はPAHAの構造制御が材料物性を大きく変化させるという点で、学術的にも工業的にも大変興味深い。 P(L-s-Bu)を様々な条件で結晶化させたが、いずれも単一の結晶形が形成され、結晶多形は見られなかった。P(L-s-Bu)の高配向試料を得ることに成功し、良質なX線回折像を得た。これを解析することで、確からしい格子定数と大まかな分子鎖コンホメーションを得た。今後、P(L-s-Bu)結晶の詳細な分子鎖コンホメーションと分子鎖充填様式を解析する予定である。 加えて、赤外分光法によりP(L-s-Bu)の分子間相互作用について調べた結果、P(L-iPr)とは異なり「弱い水素結合」の存在を示すスペクトルは見られなかった。このような水素結合が融点に大きな影響を及ぼすのであれば、その解明は材料物性の制御の観点から極めて重要である。 現在(最終年度)、P(L-iPr)の β晶及びα晶、P(L-s-Bu)結晶の構造決定に向けて、解析を続けている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2年目(H30年度)に完了予定であった 3) 立体規則性ポリ(α-ヒドロキシ酸)(PAHA)の構造解析に想定を超える時間を要した。この理由として、側鎖イソプロピル基のPAHA、P(L-iPr)の結晶構造、特に分子鎖の単位格子への充填様式が予想以上に複雑で、自作の解析プログラムに多くの追加機能を書き足す必要が生じ、時間を要したことが挙げられる。加えて、側鎖sec-ブチル基のPAHA、P(L-s-Bu)の結晶構造解析も容易では無いことが判明したため、進捗が「やや遅れている」と判断し、補助事業期間を延長した。 しかしながら、良質な配向試料を作製し適切な測定を行うことで、良質なX線回折データが得られているので、解析に時間をかけてじっくり取り組めば、信頼性の高い結晶構造モデルが得られると期待される。より大きなスケールの高次構造や球晶構造の解析は完了しているため、結晶構造が決定できれば 4) 立体規則性PAHAの構造制御による高性能化へと繋がると期待される。さらに、シンクロトロンX線を利用した時分割X線その場測定を行い、立体規則性PAHAの結晶化、結晶転移、融解挙動の解析も行っているところである。
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今後の研究の推進方策 |
補助事業期間を延長して得られた1年間で、以下のように研究を進めたい。 まず、進捗が遅れた原因である 3) 立体規則性ポリ(α-ヒドロキシ酸)(PAHA)の構造解析 に取り組む。最適な構造モデルへと収束させるため、分子鎖充填様式の最適化アルゴリズムを改良する。計算用PCの更新も考えている。 側鎖イソプロピル基のPAHA、P(L-iPr)の β晶と、側鎖sec-ブチル基のP(L-s-Bu)結晶については、分子鎖コンホメーション、単位格子、そして分子鎖の単位格子への充填様式を精密に求める。P(L-iPr)のα晶については、乱れた結晶モデルを用いて、構造の乱れを定量化する。最終的に、P(L-iPr)とP(L-s-Bu)の構造・物性の比較を行い、立体規則性PAHAの構造・物性相関の解明と4)構造制御による高性能化 を達成したい。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた理由: 参加した2つの国際会議が台湾、東京開催だったため、旅費が予想より少なく済んだため。 加えて、当該年度(2018年度)の1月で前職(東工大・助教)を退職し、2月から現職(東北大・講師)に着任したが、この異動のために様々な制約(人・場所・時間など)が生まれ、予算を予定通り執行できなかった点も挙げられる。
使用計画: 次年度使用額を、国際会議への参加(イタリア、シンガポールを予定)、解析用PCの購入(MacBook Pro)、論文校正、消耗品費などとして使いたい。
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