最終年度(令和元年度)は、立体規則性ポリ(α-ヒドロキシ酸)(PAHA)の構造・物性相関の解明を中心に研究を行った。側鎖にイソプロピル基を有する立体規則性PAHAであるP(L-iPr)の高分子量体を新たに充分量だけ合成し、熱力学的パラメーターを実験的に求め、融解エンタルピーと融解エントロピーの観点から高融点の発現機構を考察した。熱力学的パラメーターの実験的評価の際、平成30年度に得られた結晶多形とそれぞれの結晶形の作り分けの知見が非常に有用であった。比較対象として、代表的なバイオプラスチックであるポリ(L-乳酸)(PLLA、側鎖メチル基の立体規則性PAHA)に関する実験・解析も併せて行った。初年度(平成29年度)に赤外分光法からP(L-iPr)に弱い水素結合が存在するという結果が得られ、これが高融点の要因ではないかとこれまで考えていた。しかし、最終年度(令和元年度)の研究で熱力学的な観点に立ち返り、弱い水素結合ではなく、PLLAと比較した際の融解エントロピーの低さがP(L-iPr)の高融点発現の理由だと結論付けた。さらに、この熱力学的パラメーターの実験的評価の過程で、P(L-iPr)の高融点化の知見を得ることができた。これにより、PAHAの潜在する物性を最大限に引き出し高性能化を達成するという目的について、耐熱性に関しては達成できたと言える。以上の通り、本研究は、新奇バイオプラスチックの構造・物性相関を解明し高性能化のための知見を得たという実学としての意義だけでなく、新奇の結晶性高分子の固体構造と物性の基礎的知見を得たという基礎科学としての意義も兼ね備えている。
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