研究課題/領域番号 |
17K12837
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
日置 恭史郎 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 特別研究員 (10792913)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 底質 / 生態毒性 / 金属 / 亜鉛 / 端脚類 |
研究実績の概要 |
底質に蓄積した金属の毒性は、溶存態濃度で説明できるとされてきた(Di Toro et al., 2005, ETC)。しかし近年、堆積物粒子に付着した形態が底生生物に摂食されることで発現する毒性の寄与が無視出来ないとの指摘が出ている。本研究では、粒子態の毒性への寄与を考慮できる新たな指標として「代謝的に利用可能な重金属蓄積量(MAF)」を導入することを目指し、基礎的な検討をおこなった。MAFを新指標に用いることができれば、高精度な底質毒性の予測が可能になり、効果的な底質汚染対策の発展が期待できる。 本年度は、①試験生物である汽水産脚類のニホンドロソコエビの特性把握と②MAF定量のための生体試料の前処理法の検討を実施した。 ①ニホンドロソコエビの試験生物としての特性として、飼育条件下での体長増加率と一腹仔数(雌1匹あたり平均29匹)、塩分耐性、異なる粒子径分布の底質に対する応答を調べた。結果、ニホンドロソコエビは幅広い塩分(5~35‰)に対して強い耐性を持つ一方、極端な粒径分布の底質(シルト・粘土分0%または25%以上)に対しては成長を鈍化させることが明らかになった。本研究で明らかにされた非致死レベルでの本生物種の応答は、粒子態を考慮した底質汚染評価に有用な基礎知見である。 ②食料品店で購入したサクラエビを用いて体内蓄積金属の分画手法を検討した。その結果、ICP-MS分析前の酸添加によって生じる白色沈殿が内部標準であるスカンジウム(45 Sc)を吸着するため、Scは内部標準として不適切だと示唆され、代わりにイットリウム(89 Y)を用いることとした。また検討した手法をニホンドロソコエビに適用し、成体34~70 mg wetからMAFを測定できることが確認出来た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初の計画では、今年度の内に複数の底質試料を用いた曝露実験とMAF蓄積量の評価をおこなう予定だった。しかし(1)固形試料の分解に用いるマイクロウェーブと亜鉛濃度の定量に用いるICP-MSの両者が故障し、それらの復旧に長期間を要したことと、(2)ニホンドロソコエビの十分な個体数が確保出来なかったことが原因で、今年度対象にできたのは一種の底質試料のみだった。ただし体内蓄積金属の分画手法をある程度確立することができたため、進捗は「やや遅れている」と評価した。
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今後の研究の推進方策 |
研究進捗の遅れの一因であった使用可能な試験個体数の少なさを解消するため、飼育手法のより確立している別種の端脚類Hyalella aztecaの使用を検討する。今年度検討したMAFの定量法や汚染底泥の調整法に関する知見は別の試験種にも適用可能であるため、来年度も今年度の成果をもとに継続して研究を実施する。また、今年度用いた熱処理によってメタロチオネイン様タンパク質を分離する体内蓄積金属の分画手法に加えて、HPLCによるサイズ分画手法を新たに検討し、精度の向上を図る予定である。
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