ダムは、世界各地の河川で遡河性サケ類の産卵遡上を妨げており、サケ類を利用する捕食者に対する影響が懸念されている。ダムがサケ類を利用する捕食者に対して与える影響を調べた従来の研究は、ダムの有無に応じて、それらの捕食者の成長率や餌資源が異なることに着目した研究が中心である。しかし、サケ類を利用する捕食者の個体群過程への影響を理解するためには、捕食者の生活史形質に与える影響を明らかにする必要がある。本研究では、秋にサケ類の卵を捕食する淡水魚のオショロコマの生活史形質に与える影響を調べた。
知床半島の河川に生息するオショロコマの主な繁殖時期である10月下旬に、砂防ダムが遡河性サケ科魚類の遡上を妨げている河川と妨げていない河川でオショロコマのサンプリングを繰り返し実施した。それらのサンプリングで得られた個体について、体長と体重の計測、雌雄判別と成熟の有無の確認を行った。また、5%ホルマリン液に保存した成熟メスの卵サンプルについて、卵一粒あたりの重量を計測し、卵サイズの指標値を得た。卵サイズについては、体サイズの影響を補正するために、統計的に体長の影響を考慮した。上記で得られたデータから肥満度と成熟サイズ、卵サイズについて、砂防ダムが遡河性サケ科魚類の遡上を妨げている河川と妨げていない河川の間で比較を行った。
研究の結果、サケ類の卵を捕食できないダム上流のオショロコマの肥満度と成熟サイズは、サケ類の卵を捕食できるダム下流のオショロコマと異なることが明らかになった。この結果は、砂防ダムの改良(スリット化や魚道敷設)を行うことで遡河性サケ科魚類の産卵遡上を甦らせ、捕食者への影響を軽減することの重要性を示唆している。
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