本研究は、ハビタットが著しく分断されている都市景観に生息する中型食肉目が、どのような生息地ネットワークを形成しているのか明らかにすることを目的としている。とくに東京に生息するタヌキを対象として、生息地(緑地)間の個体の交流について調べることで、生息地ネットワーク構造を明らかにする。 令和元年度は前年度までに得られたタヌキのDNAサンプルの遺伝子分析を進めた。糞DNAサンプル162個、毛DNAサンプル7個の計169個を分析した結果、糞サンプルの75%、毛サンプル100%でマイクロサテライト遺伝子型決定をおこなうことができた。これらのDNAサンプルは60個体に由来しており、各地点で1-8個体が確認されたが、異なる地点からの同一個体は発見されなかった。 これらのDNA分析結果を用いて遺伝構造クラスタリング解析(STRUCTURE解析・主成分判別分析)および遺伝構造解析(主成分分析)をおこなったところ、東京周辺におけるタヌキ集団は高度に分化・隔離されていることが明らかになった。血縁解析結果からは、多くの場合は、生まれた子は親と同じ場所に留まり、他の地域に分散することは稀であることが示唆された。さらに、景観遺伝学的な解析の結果、都市的環境はタヌキの自由な移動に負の影響を与えている可能性が示された。以上のことから、東京周辺のタヌキは、都市環境に起因する生息地間のつながりの弱さによって、集団が孤立して存在していると考えられる。
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