研究課題/領域番号 |
17K12844
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
平塚 基志 早稲田大学, 人間科学学術院, 専任講師 (00649585)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 焼畑移動耕作 / ケーパビリティ |
研究実績の概要 |
ラオス北部で拡大する焼畑移動耕作に起因する森林減少・劣化に対して、その抑制のための活動(REDD+活動)が実施されつつあるが、現状ではREDD+活動の成果をGHG排出削減量という単一指標で評価することとなっており、村落及び地域住民の特徴を踏まえた上での森林保全への活動を考慮しきれない懸念がある(総合的にパフォーマンスを評価しきれない)。本研究ではラオス北部のルアンプラバン県ポンサイ郡ホアイキン村落クラスターの6村を対象に、実施されているREDD+活動(REDD+実証事業)の効果を検証するとともに、自然条件(森林室、地形等)及び社会条件(民族構成、潜在能力等)に基づく公平性を担保した総合パフォーマンス評価手法を開発することを目的とした。研究対象としたホアイキン村落クラスター内にあるHouaykhing、Sakwan、Houayha、Houaytho、Longlath、Phakbongの6村は民族構成が異なり、同時に2015年時の人口がそれぞれ1,479人、910人、396人、354人、464人、そして467人と大きく異なっていた。また、1人あたりの森林面積について衛星画像を解析することから求めたところ、2015年時で2.15ha/人、2.36ha/人、11.18ha/人、3.81ha/人、3.29ha/人、そして4.00ha/人と大きく異なっていた。このように自然条件と社会条件が異なる地域であることは、焼畑移動耕作への依存度も異なることが強く示唆された。このため、GHG排出削減量という単一指標だけを用いれば、GHG排出削減量の獲得が困難な地域にとっては不公平感が生じることが推察された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究対象としたホアイキン村落クラスターの6村において、「自然条件及び社会条件の違いと森林保全を進めるための難易度の関係整理」を進めるため、自然条件として6村の土地被覆(2010年と2015年)を解析した。また、地形(傾斜及び標高)についても解析した。次に、社会条件として各村における民族構成、森林資源への依存度(焼畑移動耕作への依存度)について明らかにした。こうした基礎情報を踏まえ、地域住民に対しては5段階の間隔尺度を踏まえた調査票を用いて個別インタビュー調査を行った。その結果、土地被覆の分析からは森林率が2010年から2015年で微減傾向にあることが分かった(Houaykhing: 43%から40%、Sakwan: 49%から46%、Houayha: 54%から53%、Houaytho: 46%から44%、Longlath: 47%から45%、Phakbong: 49%から47%)。また、2015年の1人あたりの焼畑面積(休閑地&当年度の焼畑地)は各村で大きく異なることが分かった(Houaykhing: 3.14ha、Sakwan: 2.62ha、Houayha: 8.72ha、Houaytho: 4.54ha、Longlath: 3.82ha、Phakbong: 4.26ha)。このことから、焼畑移動耕作への依存度は例えばSakwanとHouayhaでは大きく異なること、そして、このことが焼畑移動耕作を削減すること(1ha削減するにあたっての難易度)に大きな違いをもたらしていることが明らかになった。なお、個別インタビュー調査の結果から、6村全体における世帯収入は2010年の平均5,413千Kip/年から2015年の12,912千Kip/年に大きく改善していることが分かった。今後は各村で世帯収入の分析を進め、世帯収入が変化した要因を特定する必要がある。
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今後の研究の推進方策 |
今後の予定として、引き続き「自然条件及び社会条件の違いと森林保全を進めるための難易度の関係整理」を進めるため、自然条件の詳細分析を進めるとともに、個別インタビュー調査で収集した社会条件についての分析を進める。その結果から、各村における焼畑移動耕作の抑制に係る難易度を示し、その実現にあたり必要となる総合パフォーマンスの違いを示すこととする。加えて、REDD+活動の実施に対して、ルアンプラバン県で進められているREDD+実証事業と連携して試行的支払いを行い、それによる森林保全へのインセンティブ付与を総合評価することから、REDD+の方向性(制度設計のあり方)について考察を加える。例えば、上記の通りSakwanとHouayhaでは自然条件(1人あたりの森林面積等)が異なるとともに、地域住民がKhumu属とHmong属と異なることから土地利用の方法が異なるが、こうした違いに着目し、それぞれが森林保全へのインセンティブを得ることができるような方向性(あり方)について検討を加える。結果としてラオス北部で進められているREDD+事業(日本とラオスの二国間合意に基づく事業)において総合パフォーマンスを考慮した地域住民への配慮がなされることが期待される。また、そうなることでREDD+事業の円滑な実施に貢献すること、さらにはラオスを含めたメコン流域におけるREDD+事業にも活用される(成果の横展開)ことが期待される。
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