研究実績の概要 |
食品加工場などから年間数万tが廃棄されている海藻残渣や, 沿岸域に漂着する流れ藻を「マリンバイオマス」として捉えた持続可能な有効活用法の開発は重要な研究課題である。申請者は, 複数種の海藻藻体を分解することができるSaccharophagus属の「新種 (Myt-1 株)」を富山湾の海底堆積物から単離することに世界で初めて成功した。本研究の目的は, Myt-1 株が産生する海藻分解産物の有効性を検証し, Myt-1 株から海藻多糖分解酵素をクローニングしてそれらの特徴を解析することである。平成29年度の実施状況について以下に報告する。 1. 褐藻類 (ワカメ・コンブ), 緑藻類 (アオサ), 紅藻類 (マクサ) に対する藻体分解活性を測定した。その結果, 3種全ての藻体の細粒化を再確認するとともに, 特に褐藻類の分解が顕著であることが明らかとなった。さらに, 培養液上澄中の還元糖量と分解に関与する多糖類分解酵素 (アルギン酸リアーゼ, セルラーゼ, アガラーゼ) の活性を測定した結果, 細菌の増殖や藻体の分解に伴って, 酵素活性及び還元糖量が増加していくことが明らかとなり, 酵素遺伝子の単離や糖類の機能性に期待が持たれた。2. 廃棄海藻の持続可能な有効利用を目指して, 分解に必要な栄養素の探索を行った。天然海水を基本として, 様々な濃度・種類のリン源, 窒素源, ビタミン源を添加することで, 細菌が増殖し, 且つ, 海藻を分解できる最小の栄養素を探った結果, 0.1% (w/v) 無機態窒素を添加するだけで速い増殖と強い分解が見られた。3. DGGEを用いて富山湾表層海水中に生息する海藻分解菌の分布調査を開始した。その結果, 複数種の海藻分解菌が年間を通して生息しており, それらの群集構造は湾全体で比較的均一で, 緩やかに季節変動している可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
申請者は, 上述のように複数種の海藻藻体を分解できる新種の細菌Myt-1株を, 富山湾の海底堆積物から単離した。そこで, 平成29~31年度にわたる本申請では, 廃棄海藻の持続可能な有効利用を目指して, まず, Myt-1株を各種海藻藻体を含んだ培地中で培養した際の分解能, 還元糖量の変化, 分解酵素活性を調べた。その結果, 上述のように3種全ての海藻藻体を分解することができ, 分解に伴う還元糖量の増加と複数種の分解酵素活性を検出した。これら分解酵素遺伝子のクローニングや糖類の機能性に期待が持たれた。さらに, 細菌が増殖し, 且つ, 海藻を分解できる最小の栄養素を探った結果, 0.1% (w/v) 無機態窒素を添加するだけで速い増殖と強い分解が見られた。この結果は, 廃棄海藻の持続可能な有効利用に繋がる有用な知見となると考えられた。さらに, 海洋の炭素循環にも大きく寄与していると考えられている海藻分解菌の分布を調べる第一歩として, 上述のように, 富山湾の表層海水中の海藻分解菌を遺伝子を用いて捉えることに成功した。その結果, 富山湾の表層海水中には複数種の海藻分解菌が年間を通して生息しており, それらの群集構造は湾全体で比較的均一で, 緩やかに季節変動している可能性が示唆された。
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今後の研究の推進方策 |
平成30年度以降は, まず, 海藻藻体の分解に伴って産生されるオリゴ糖類や単糖の同定や機能性について検証する。具体的には, 各種クロマトグラフィーと機器分析を用いて, 機能性オリゴ糖を分離し, 同定する。さらに, 海藻藻体を含む培地でMyt-1株を培養して得られた培養液上澄中のDPPHラジカル除去活性の測定や, 分解産物配合餌を調合し, それをマウスに摂餌させ, その腸内環境の変化(糞中胆汁酸構成)と血中脂質低下効果を評価することを計画している。さらに, 富山湾における海藻分解菌の群集構造の周年性を検証するために, 平成29年度に確立した方法で引き続きモニタリングを行う。 さらに, 海藻藻体の分解機構の解明や新規酵素の産業利用を目指して, 以下の実験も着手する予定である。 1. プラスミドベクターpUC118と大腸菌DH5αを用いたショットガン・クローニング法とPrimer Walking法で各種多糖分解酵素遺伝子の検出・同定を行う。2. 同定した遺伝子と発現用pETベクター, 発現用大腸菌BL21を用いた各種酵素の大量発現させ, Ni-NTAアフィニティクロマトグラフィで精製する。3. 得られた各酵素の至適温度や至適pH, 耐熱性, 金属イオンやキレート剤, 界面活性剤の活性への影響など酵素学的諸性質を調べる。
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