研究実績の概要 |
ネパール連邦共和国(以下ネパール)の首都であるカトマンズは、現在大気汚染による健康リスクの増大が懸念されている。ネパール政府の推計によると、カトマンズ市内において2005年は約1,600人、2009年には約2,000人が大気汚染を起因とする要因で死亡している。また、市民は等しく大気汚染にさらされるものの、貧困層ほど対策が困難であり、とりわけ妊婦や幼児は脆弱性の度合いが高いことからより大きな健康被害を受けるリスクも高い可能性がある。そこで本研究では、ネパール連邦民主共和国における国境封鎖を自然実験として利用し、 大気質の改善が出生体重に与える影響を推計した。2017年6 月に首都カトマンズで実施した事前調査のデータを用いた分析から、母親の胎内において大気質が改善した期間をより長く過ごした子どもほど出生体重が増加することが示された。大気質改善の影響を受けていない子ども同士の比較においては、 健康改善効果は見られず、 固有の時間的傾向あるいは他の交絡要因による影響の可能性は小さいと判断される。今後は病院でデータを取得して、より詳細な研究を行うことで、健康への影響を検証していきたい。なお、今回の調査は当初の計画通りに進めることが困難なものが多かった。まず、RCTとして使用予定であったマスクについてP M2.5まで除去可能なマスクが予定以上に高額なため、回答者に参考として提示することは可能であったが、配布による実験を行うことができなかった。また、現地で調査員を雇用した調査を行ったが、予定していたよりもサンプルサイズを集めることができなかった。また欠損しているデータも多く、分析に使用できるものが少なかった。トレーニング不足や現地でのサポート体制の構築が不十分だったことが原因として考えられる。今後も調査を続けていくにあたり、上記の経験を踏まえた上で研究を続けていきたい。
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