研究課題/領域番号 |
17K12855
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
秋山 知宏 東京大学, 大学院新領域創成科学研究科, 客員共同研究員 (90452523)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 乾燥地 / 水資源管理 / 節水政策 / 持続可能性 / 現地調査 / 数理モデル |
研究実績の概要 |
平成29年度には3つの作業を行った;現地調査に基づくデータセットの作成,持続可能性に関わる鍵概念の体系化,持続可能性概念を考慮した水資源管理政策代替案の策定方法に関する検討.第一点目について,黒河流域の水環境システムを対象として,開発する数理モデルの解析範囲を定めた.これに基づき現地調査を行い,①水循環と水利用の変化,②生態系と土地利用の変化,③社会経済の変化に関するデータセットを作成した.解析の結果,節水政策の実施にもかかわらず,取水量の合計が増えたことが明らかになった.農民レベルで節水された2.0×10^8 m^3 a^-1は,主に農業企業によって新たに開墾された農地における蒸発散(2.6×10^8 m^3 a^-1)として消費されたと考えられる. 第二に,持続可能性の範疇に含まれる概念が多岐に渡ることが具体的な水資源管理政策の策定を困難にしているという現状に鑑み,持続可能性に関わる鍵概念の体系化を行った.考察の結果,持続可能性概念の内包には,①継続性・連続性・存続性,②方向性(方向付けをするという性質),③関係性という3つの主要な特性があるとわかった.そして,①を決定づける下位概念として適応性・効率性・強靱性(レジリエンス)の3つが抽出され,③を決定づける下位概念として分離・統合・補完の3つが抽出された. 第三に,持続可能性の定量化のための数理モデルを開発し,現地調査で得られたデータセットをもとにしてマトリックス分析を行い,節水政策実施前後の水環境システムの持続性,効率性,レジリエンスを評価した.その結果,節水政策による水利用効率の追求が,水環境システムのレジリエンスを大幅に低下させてきたことを実証的に示した.開発した数理モデルにより,水環境システムの効率性やレジリエンスなどを定量的に調整しながら,水資源管理政策の代替シナリオを策定できるようになったと考えられる.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
予定していた論文出版数を大幅に上回る数の論文を出版できたため.現地調査で得られた豊富なデータに基づき,国際的に競争力の高い学術誌において研究成果を発表できた.
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今後の研究の推進方策 |
平成30年度は,マルチエージェントモデルを用いた多基準社会的意思決定法の枠組の開発に焦点を当てる.本研究は,人工知能技術を応用したマルチエージェントモデルを用いることによって,この限界を超えられるかどうかを考察するものである.すなわち,政策を含む社会経済,気候変動,水循環,生態系などの情報に対する個人や集団の行動様式をルールベース化して,人工知能(AI)技術を使って人間活動を再現できるかどうかを考察する.再現性の検証に当たっては,アンケート調査の結果を使う.ただし,モデルのトレーニングデータとは異なる検証用データを使う. その上で,開発するマルチエージェントモデルに,水循環モデルならびに陸域生態系モデルを結合する.これは,将来にわたる水循環,陸域生態系,社会経済への影響を客観的に評価できるようにするためであり,適切な水資源管理政策の代替案の選択に当たって重要である.水循環への影響評価には,河川流量から地下水動態を含めてその精度を確認済みである分布型水循環モデルを用いる.この内部に,植物の生育・枯死を計算できる植生動態モデルを構築する.こうすることで,水循環と植生動態との相互作用を考慮できる.このようにして開発するシミュレーションモデルの妥当性については,月単位の地下水位や葉面積指数,土地利用や産業構造,部門別の取水源と取水量などから検証する.
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