前年度までに開発したマルチエージェントシミュレーションモデルをより精緻にするための作業をおこなった.その結果,本モデルの精度を高めることができた.統計データや観測データに基づいて本モデルを検証した結果,本モデルは高い精度で水収支を閉じることができ,社会経済的影響も含めて,多面的な影響評価を行えることが明らかになった.したがって,マルチエージェントモデルは多基準意思決定法の限界を超えられるかという問いに対して,マルチエージェントモデルは多基準意思決定法の限界を超えられると結論づけられる.その上で,ENAモデルを用いて5つのシナリオを作成し,開発したマルチエージェントシミュレーションモデルを用いて評価した:BAUシナリオ,環境保全シナリオ,効率性重視シナリオ,生産性重視シナリオ,レジリエントシナリオ. 今後の課題は以下の5つである:1)オフライン結合をオンライン結合に変えること,2)不確実性と複雑性に対応すること,3)評価項目を増やすこと,4)利用可能なデータセットを最大限に活用すること,5)本モデルを意思決定支援システムとして現地の行政と共有し,運用上の効果と課題を評価すること.5)に関しては,シミュレーション結果を数値だけでなく,アニメーションとして提供し,プロセスを共有することで,実効性の高い計画策定につなげる.結果の数値だけを比較するのではなく,プロセスを見て,その原因を探ることまでを行い,計画を評価する.
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