著者はデザイン活動に着目し,デザイン活動を模したタスクを行う際の脳血流を計測し,被験者の属性や,ツールの違いによる脳血流の差異について検討してきた。デザイン活動を行う際の脳血流を計測するにあたり,拘束性の問題,ノイズ除去の問題などの解決を積み重ねてきたが,デザインを模したタスクと実務的なデザイン作業の乖離についての検討の必要性を実感しているところであった。本研究は脳血流計測における実務のデザインと近似した実験タスクはどのようなものなのか,その結果をどのように分析するかを検討した。 今回は様々な検討から,実際的なテーマを設定し,素材を用意したレイアウトタスクでも脳血流の計測が可能であると判断した。実際に作成されたデザインも,著者のこれまでの研究とは異なり,プロダクトクオリティのアウトプットが示され,実際のデザイン作業と差が無いと考える。 一方でこのような実験を行うにはそもそもデザインができる被験者が必要であり,なおかつ長時間の計測になるため,多人数から得たデータを平均化して比較すると言った方法には適していないことが明らかになった。 それに対し本研究でとったのは,個々のイベントと脳血流変化量の上昇と下降に着目した解析方法である。この方法により明らかになった事は,ひとつひとつの脳血流変化量の上昇と下降に伴うイベントに,実験者または被験者自身による意味づけが可能であり,より詳細な脳血流変化のトリガーを見いだすことが可能ということだ。本研究においてはストレスがかかると想定されるイベントでは上昇が認められ,デザインの成果が得られたと判断されるイベントでは下降が認められた。また,デザインのゴールが見えてきた状況では全体的に下降傾向が認められた。 デザインタスクに伴うストレスの上昇と下降の検討の検討が可能になれば,デザインのツールや環境の評価への応用が可能になると結論づける。
|